【背景・目的】オピオイド受容体(OR)はμ、δ、κの3種類があり、オピオイド製剤は主にμORを介して鎮痛作用を発揮する。近年μとδで構成されるヘテロ二量体が脊髄や脳に発現し、その選択的アゴニストは鎮痛耐性が少ないことが報告された。私たちは、μ/δヘテロ二量体の詳細な機能を明らかにするため、μ/δORを共発現するHEK293細胞を用いて、細胞膜上でのμ/δヘテロ二量体を可視化できるDuolink®︎近接ライゲーションアッセイシステムにより、ORアゴニストによるμ/δヘテロ二量体の細胞膜上の発現変化の観察を行った。
【方法】HaloタグおよびT7タグをそれぞれ付加したHalo-μORおよびT7-δORを共発現させたHEK293細胞を用い、Duolink®︎近接ライゲーションアッセイ法により、細胞膜上でのμ/δ二量体形成を観察した。同アッセイは、オリゴヌクレオチドプローブ付加二次抗体を2種類用いて行う免疫染色で、付加体が40 nm以内に近接化している時のみ蛍光標識されたDNAが増幅される。蛍光観察のためanti-Haloタグおよびanti-T7タグの一次抗体を用い、次いでオリゴヌクレオチドプローブ付加2次抗体を用いて解析を行なった。
【結果・考察】Anti-Halo、anti-T7の1次抗体を用いて、Duolink®︎近接ライゲーションアッセイを行ったところ、Halo-μ/ T7-δ共発現細胞のみで緑色蛍光が細胞膜上に観察され、Halo-μOR並びにT7-δOR単独発現細胞では蛍光は観察されなかった。さらに、Halo-μ/ T7-δ共発現細胞にμORアゴニストDAMGO (10μM)、δORアゴニストSNC80 (10μM)およびμ/δORアゴニストML335 (10μM)を37℃,75分間処置したところ、vehicle処置と比較し、全てのアゴニスト刺激で細胞膜上の緑色蛍光が減弱した。以上より、アゴニストにより活性化されたヘテロ二量体が細胞膜上で減少したと考えられた。
以上、各種ORアゴニスト刺激で細胞膜上でのμ/δ二量体発現変化が観察されたことから、同アッセイはアゴニストやアンタゴニストによる細胞膜上の二量体の動態変化を解析できるツールとなることが考えられた。