【目的】人参養栄湯は12種類の生薬から構成される漢方製剤で、食欲不振、病後の体力低下、疲労倦怠感などに効果があり、特にがん患者のQuality of Life (QOL) の向上に用いられている。当研究室ではこれまで、人参養栄湯が食欲中枢において食欲増進に関与するオレキシン1受容体(OX1R)を活性化し、さらに12種類の構成生薬のうち、陳皮がOX1Rの活性増強に寄与することを明らかにした。そこで本研究では、陳皮に含まれる精油成分に着目し、OX1Rに対する活性化成分の同定を目的に研究を試みた。
【方法】OX1Rを安定発現させた Human Embryonic Kidney 293 細胞を作製し、OX1Rのシグナル変化を電気抵抗値として測定できるCellKeyTMシステムにより精油成分の解析を行った。実験には陳皮に含まれるフラボノイド成分、精油成分のうち、精油成分の主成分であるリモネン、リナロール、テルピネオールの3種類を用いた。また、活性が認められた成分については、OX1Rの阻害剤を用いてOX1Rに特異的な活性を示すか否かの検討を行った。精油成分は水に不溶であるためDMSOとcremophorの2種類の溶媒にそれぞれ溶解し、実験に使用した。
【結果】リモネン、リナロールおよびテルピネオールをOX1R発現細胞に投与したところ、DMSO溶媒では高濃度リモネン、リナロールで有意な活性を示した。また、cremophor溶媒では高濃度リモネンのみvehicleに比べ有意な活性化作用が認められた。またどちらの溶媒でも認められたリモネンのOX1R活性化作用は、OX1R特異的阻害剤SB-674042により有意に抑制された。
【考察】本研究より陳皮に含まれるリモネンは高濃度(10-4M)で有意なOX1R活性化作用を示し、またその活性はOX1R特異的阻害剤によって有意に抑制されたため、リモネンはOX1Rへの直接活性化作用を有すると考えられた。漢方薬の作用は各生薬の相互作用および生薬に含まれる成分同士の相乗効果などにより得られることが知られているため、現在陳皮に含まれるフラボノイド成分と精油成分の組み合わせによるOX1Rへの作用についての評価を行っている。