【目的】オピオイド受容体(OR)はμ(μOR), δ(δOR), κ(κOR)の3つのサブタイプが存在し、医療用麻薬として使用されるオピオイド製剤は主にμORを介して鎮痛効果を発揮する。オピオイド製剤は、長期使用により副作用の発現や鎮痛耐性を形成することから、副作用が少なくかつ鎮痛作用が強力な新規鎮痛薬の開発が期待されている。近年、μ/δヘテロダイマーのアゴニストであるML335がモルヒネと同等の鎮痛効果を示し、かつ鎮痛耐性を形成しにくいことが報告された。本研究室では、これまでML335のμ/δヘテロダイマーへの活性を上回り、かつμORへの活性をほぼ示さないモルヒナン誘導体SYK-663を見出した。そこで本研究では、SYK-663の誘導体を合成し、μ/δヘテロダイマーのみに特異的な活性を示す化合物の探索をcAMP活性を指標として評価した。
【方法】Human Embryonic Kidney 293(HEK293)細胞にμ, δ, μ/δを安定発現させた細胞を用い、cAMPと特異的に結合することにより蛍光強度が減衰する蛍光バイオセンサーcADDis cAMP sensor BacMam assayにより、SYK-663誘導体であるSYK-1269、1270、1271、1272、1273の5化合物のcAMP活性を評価した。
【結果】SYK-1269、1270、1271、1272、1273はSYK-663と同様にμORに対する活性はほぼ示さなかった。δORへの親和性及び活性はSYK-663と比して低下していた。一方μ/δヘテロダイマーに対する活性は、ML335,SYK-663と比してほとんど活性を示さなかった。SYK-1272、1273については、10-8M~10-5Mの濃度での活性が低下することが明らかとなった。
【考察】以上の結果から、SYK-663誘導体5種は、SYK-663に比べμ/δヘテロダイマーへの親和性が低いことが明らかとなった。SYK-1269、1270、1271はSYK-663の構造に比し、かさ高い置換基が17位窒素の近くにあることで受容体結合が妨げられ、μ/δヘテロダイマーへの親和性がSYK-663より低くなると考えられた。またSYK-1272、1273については、17位窒素に付加される2-プロピニル、2-プロぺニル構造が高濃度での活性低下に寄与している可能性が示唆された。