マイクログリアは脳内免疫細胞とも呼ばれ、脳内の異物の貪食や、サイトカイン放出等を
行い脳内の恒常性を維持する。このような特性からマイクログリアは脳疾患と深く関わっ
ている。例えば、マイクログリアは脳疾患において細胞の形をアメボイド状に変化させ、
増殖し、炎症性サイトカインを放出する。そして、近年のゲノミクスの発達により様々な
CNSの疾患においてこのようなマイクログリアが共通する遺伝子発現を示すことが分かり
、疾患関連マイクログリア(DAM)と名付けられた。
DAMで典型的に発現が上昇する因子の一つとして、主にミエロイド系の細胞に発現する膜
受容体のClec7a(Dectin-1)が知られている。しかしマイクログリアに発現するClec7aが脳
疾患においてどのような役割を果たしているのかについての知見はほとんどない。
内側側頭葉てんかんは海馬を発作焦点とするてんかんで、てんかん患者の約3割を占める
主要なてんかんであるが、患者の約3割は既存の抗てんかん薬による治療が有効ではない

内側側頭葉てんかんのモデルとしてカイニン酸モデルが良く用いられる。このモデルでは
海馬のCA3野およびCA1野における過剰興奮による神経細胞死に続き、マイクログリアの
DAM様の変化が起こるが、カイニン酸モデルにおいてClec7aの発現を調べた知見はまだな
い。
そこで本研究では内側側頭葉てんかんモデルマウスを用いて、内側側頭葉てんかんにおい
てもClec7aの発現が亢進するのか、またマイクログリアに発現するClec7aがどのような役
割を果たしているのかを調べた。
カイニン酸を投与してから1週間後のマウスの海馬において、顕著な神経細胞死の生じた海
馬のCA3野およびCA1野でマイクログリアにおけるClec7aの発現が亢進していた。また海
馬のスライスカルチャーにカイニン酸を投与したところ、細胞増殖マーカーであるKi67陽
性のマイクログリアは、Ki67陰性のマイクログリアと比べてClec7aの発現量が高かった。
そこでClec7aがマイクログリアの増殖に寄与しているのではないかと考え、Clec7aの作動
薬であるCurdlanをマイクログリアの培養系に投与すると、マイクログリアで細胞増殖を
促進するERKの活性化が起こった。以上のことから、内側側頭葉てんかんモデルにおいて
神経細胞死に応答してマイクログリアに発現するClec7aが、マイクログリアの増殖に寄与
している可能性が示唆された。