【目的】血管弾性は効率的な全身循環の維持に必要な血管機能として知られる。これまで当研究室では大動脈領域と大腿動脈領域の区間毎の脈波伝播速度より算出された領域毎のβ値を血管弾性指標として用い、angiotensin Ⅱが大腿動脈領域のβ値を上昇(血管弾性低下を反映)させる一方で、大動脈領域のβ値を低下(血管弾性上昇を反映)させることを確認している。本研究では、昇圧薬が大動脈と大腿動脈の血管弾性に影響を与える要因を分析した。
【方法】Isoflurane麻酔下のNZWウサギを用い、心電図と心音図を記録した。右上腕動脈、右腓骨動脈、および左総腸骨動脈起始部の血圧を同時計測し、大動脈分岐部を境界点とした大動脈領域と大腿動脈領域のβ値(aortic βとfemoral β)を計測した。開胸下で大動脈起始部に超音波血流プローブを装着し、大動脈血流量を測定した。Angiotensin Ⅱ(100, 300 ng/kg)またはdobutamine(30, 100 µg/kg)を10分間で静脈内投与し、投与開始30分後まで各指標の変化を観察した。
【結果】Angiotensin Ⅱは平均血圧と大動脈血流量を用量依存的に増加させた。この時、aortic βは用量依存的に低下し、femoral βは用量依存的に増加した。Dobutamineは平均血圧と大動脈血流量を用量依存的に増加させた。この時、aortic βは用量依存的に低下し、femoral βは用量依存的に増加した。これら昇圧薬によるaortic βとfemoral βの変化の程度は平均血圧および大動脈血流量の変化量に相応して観察され、angiotensin Ⅱによるaortic βとfemoral βの変化量は大動脈血流量に比べて平均血圧の変化に強い相関が認められ、dobutamineによるaortic βとfemoral βの変化量は平均血圧に比べて大動脈血流量の変化に強く相関した。
【結論】大動脈と大腿動脈の血管弾性は血圧や大動脈血流量の急激な変動に応じて変化しており、昇圧薬の薬理作用の違いにより血管弾性に影響を与える要因の寄与度が異なる可能性が示された。