【目的】アンジオテンシンⅡは細動脈への作用を通じて血圧上昇や臓器血流の調節に関わるが、大腿動脈の血管弾性の制御にも関与することを当研究室の麻酔ウサギを用いた最近の研究で明らかにした。アンジオテンシンⅡが血管弾性を変化させる機序を考察するため、ニカルジピンおよびニトログリセリンがアンジオテンシンⅡによる大腿動脈の血管弾性低下に及ぼす影響を検討した。
【方法】イソフルラン麻酔下のNZWウサギを用い、心電図、心音図および大腿動脈血流を記録した。右上腕動脈、右腓骨動脈、および左総腸骨動脈起始部の血圧を同時計測し、大動脈領域と大腿動脈領域の区間毎の脈波伝播速度より大動脈分岐部を境界点とした大動脈領域と大腿動脈領域の区間毎の脈波伝播速度より領域別のβ値(aortic βとfemoral β)を計測した。アンジオテンシンⅡ(300 ng/kg)を10分間で静脈内投与してコントロールの血管反応を得た後に、ニトログリセリン(0.4, 0.8, 1.6 μg/kg/min)またはニカルジピン(0.1, 0.3, 1.0 μg/kg/min)の持続投与を開始し、5分後より再びアンジオテンシンⅡを静脈内投与して各指標の変化を観察した。
【結果】アンジオテンシンⅡによる血管反応はニカルジピンにより抑制され、その作用は下肢血管抵抗上昇反応に対し低用量から、femoral β上昇反応に対し中用量から認められた。アンジオテンシンⅡによる下肢血管抵抗とfemoral βの上昇反応はニカルジピンの最高用量で完全に抑制された。一方、アンジオテンシンⅡによるこれら血管反応に対するニトログリセリンの作用は弱く、ニトログリセリンの中用量は下肢血管抵抗上昇反応を24%、femoral β上昇反応を50%抑制したが、ニトログリセリンの高用量で更なる抑制効果は認められなかった。
【考察】アンジオテンシンⅡによる大腿動脈の血管弾性低下には血管抵抗を反映する細動脈と同様にCa2+チャネルを介した経路による血管平滑筋収縮作用が関与することが確認された。また、NO/cGMP系はアンジオテンシンⅡによる大腿動脈の血管弾性低下に対し、部分的に修飾することが示された。