【背景・目的】血小板活性化因子(PAF)は微量で強力かつ多彩な生理作用を示すリン脂質で、その産生や機能発現に関わる調節機構の異常がアレルギー性疾患や炎症性疾患などの病態の誘因となる可能性が示されている。PAFの作用は全身の様々な組織や細胞で報告されているが、平滑筋組織に焦点を絞ると、血管では内皮依存性の弛緩反応を誘発することが報告されている一方で、気管・気管支平滑筋、消化管(胃底、回腸、結腸)平滑筋、妊娠子宮平滑筋では収縮を引き起こすことが報告されている。近年、喫煙によりPAFが膀胱の微小血管内皮細胞や上皮細胞で蓄積することが報告され、下部尿路疾患の発症との関連性が示唆されている。しかし、膀胱の収縮機能に対するPAFの影響はこれまでのところ検討されていない。そこで、本研究では、モルモット摘出膀胱平滑筋組織を用いて、その収縮機能に対するPAFの影響を明らかにするとともに、膀胱組織におけるPAF受容体、PAF合成酵素、PAF分解酵素の発現についても検討することにした。
【方法】1)モルモット摘出膀胱平滑筋標本の基礎張力と自発性収縮活動を等張性に記録した。PAFによる反応を記録する際は、神経伝達物質の影響を排除する目的でatropine、suramin、phentolamine、propranolol、tetrodotoxin存在下で行った。2)RT-q-PCRにより、膀胱組織におけるPAF受容体、PAF合成酵素、PAF分解酵素のmRNA量を測定した。
【結果】1)PAF(10−9–10−6 M)は、モルモット膀胱平滑筋標本の基礎張力と自発性収縮活動の振幅および頻度を濃度依存的かつ強力に増強した。2)PAF(10−6 M)による増強効果は、膀胱上皮を除去した標本においても認められた。3)PAF(10−6 M)による増強効果は、PAF受容体拮抗薬(apafant、10−5 M)の前処置によって著明に抑制された。4)膀胱組織において、PAF受容体(Ptafr)、PAF合成酵素(Lpcat1Lpcat2)、PAF分解酵素(Pafah1b3Pafah2)のmRNAの発現が認められた。
【考察】PAFは膀胱平滑筋の収縮機能を制御する新たな内因性生理活性物質となる可能性が示されるとともに、その過剰発現や膀胱平滑筋の感受性亢進が過活動膀胱などの下部尿路疾患の誘因となる可能性も示唆された。