【目的】
アセトアミノフェン(Acetaminophen, APAP)を過剰に摂取すると重症急性肝障害を起こし、予後不良となる。欧米では重症急性肝障害の原因の約半数がアセトアミノフェンの過剰投与による。APAP肝障害にはマクロファージの関与が注目されているが、そのメカニズムは十分、理解されていない。トロンボキサン(thromboxane A2,TxA2)には血小板凝集作用があり肝障害に寄与する可能性が示唆されているが、マクロファージに作用したときの効果は未解明である。そこで本研究ではマクロファージにおけるTxA2受容体(thromboxane-prostanoid, TP)シグナルがAPAP肝障害に果たす役割を解明することを目的とした。
【方法】
雄性マクロファージ特異的TP受容体欠損マウス(TPΔmac)とコントロールマウス(Cont)を用いた。APAP(300 mg/kg)を腹腔内単回投与し、経時的に肝障害を血液生化学、組織染色、qPCRなどで解析した。
【結果】
Contにおける血清ALT値はAPAP投与6時間後にピークとなり、以後漸減した。TPΔmacでは、APAP投与48時間後でもALT値は高値を示し、APAP肝障害は遷延した。肝壊死面積もCont で減少傾向を示したがTPΔmacでは壊死が持続した。肝組織中の炎症性マクロファージ関連遺伝子を測定するとAPAP投与48時間後においてTnf,Il1b,Il6はContよりTPΔmacで増加した。抗炎症性マクロファージ関連遺伝子Il10, Mrc1, Retnlaなどは両群に差はなかった。肝再生因子HgfはContに比較してTPΔmacで低値であった。CD68による肝臓免疫染色ではContにおいて肝壊死部にマクロファージの集積がみられたが、TPΔmacではみられなかった。
【結論】
マクロファージにおけるTP受容体シグナルは炎症性マクロファージを抑制してアセトアミノフェン肝障害を軽減する可能性が示唆された。