【目的】
子宮内膜症は生殖年齢女性の5~10%が罹患し不妊症、月経困難症などを合併する慢性疾患である。これまでわたしたちは、子宮内膜症では内膜組織が異所性に発育・増殖する点に着目し、血管新生やリンパ管新生が子宮内膜症発育に関与することを報告してきた。さらにシクロオキシゲナーゼ由来のプロスタグランジンには内膜症病変内の血管新生を促進する作用があることを見いだした。一方で、シクロオキシゲナーゼの働きにより合成されるトロンボキサンA2(TxA2)の関与は不明である。そこで、TxA2受容体(TP受容体)シグナルが子宮内膜症における血管およびリンパ管新生を制御するかを明らかにすることを本研究の目的とした。
【方法】
9週令C57BL/6マウス(野生型,WT)とTP受容体ノックアウトマウス(KO)を用いた。ドナー(WTまたはKO)マウスの子宮内膜移植片を、あらかじめ卵巣摘出術を施行した宿主(WTまたはKO)の腹膜に移植するマウス異所性子宮内膜症モデルを作成した(WT→WT,KO→KO)。移植後14日目に移植片を摘出し、子宮内膜移植片面積、血管新生ならびにリンパ管新生およびその関連因子について、免疫染色やPCRなどで比較検討した。
【結果】
移植後14日目の、移植片面積ならびに移植片内の血管密度・リンパ管密度はWT→WTに比べてKO→KOで増加した。血管内皮マーカー(Cd31)やリンパ管内皮マーカー(Lyve1, Prox1, Vegfr3)の発現もKO→KOで増加した。さらに血管新生因子(Vegfa)やリンパ管新生因子(Vegfc,Vegfd)の発現もKO→KOで増加した。二重免疫染色にてTPは移植片のマクロファージ(F4/80陽性細胞)に共発現したが、血管内皮 (CD31)やリンパ管内皮 (LYVE-1)には共発現しなかった。移植片内のマクロファージ関連マーカー発現を解析すると、M1マクロファージ関連遺伝子(Tnfa, Il1b, Il6, Nos2)には差はなく、M2マクロファージ関連遺伝子(Il10)がKO→KOで増加した。
【結論】
異所性子宮内膜症モデルにおいて、TP受容体シグナルはM2マクロファージからの血管およびリンパ管新生因子産生を抑制して血管・リンパ管新生を減少させることで、子宮内膜症進展に関与することが示唆された。