【目的】子宮内膜症は、内膜組織が異所性に存在して機能する疾患であり、罹患率が高く、腹部疼痛や不妊症を招く。病変部位では炎症反応や線維化が誘起されている。我々は以前に、子宮内膜症動物モデルの病変において急性期タンパク質として知られているセリンプロテアーゼ阻害因子alpha 1 antitrypsin(A1AT)の発現が低下していることを報告した(Reprod. Sci.; 2015:22)。しかしながら、A1ATの発現低下と子宮内膜症病態との関連性は不明である。そこで、ヒト子宮内膜間質細胞におけるA1ATの役割について網羅的トランスクリプトーム解析により精査した。
【方法】ヒト初代培養子宮内膜間質細胞にsiRNAを導入しA1AT発現を抑制した。その後、全転写産物をRNAシーケンスにて解析した。次に、この解析により有意に変化した因子をqPCRおよびウエスタンブロットにより検証した。
【結果】A1AT発現抑制により有意な発現変化がみられた因子群をパスウェイ解析およびGO解析にて解析したところ、Toll様受容体3/4(TLR3/4)とその下流因子MYD88およびインターフェロン応答因子群が有意に増加した。これらの因子の発現は、培養細胞のA1AT発現抑制により上昇することがqPCRによっても確認された。また、MYD88やその下流因子IRAK1、IRAK4は、A1AT発現抑制により活性化した。さらに、A1ATの関与を確かめるために、A1AT発現抑制細胞にTLR3または4阻害薬を処置したところ、A1AT発現抑制により上昇したTLR下流因子と炎症誘導因子は、減少した。次にA1AT発現抑制により産生されるインターロイキン (IL)-1βおよびインターフェロン(IFN)βが炎症を増悪させるか否かを検証した。IL1βの処置はA1AT発現抑制によるIL-6などの炎症誘導因子の発現をさらに増加させた。一方で、IFNβはTLR3/4の発現を増加させ、さらに炎症誘導因子の発現も増加させた。
【考察】子宮内膜間質細胞においてA1AT発現レベルの低下はTLR3/4/MYD88経路を介して炎症関連因子を上昇させること、またIL-1βとIFNβはTLR3/4を介して炎症の増強を引き起こすことを示唆した。子宮内膜間質細胞A1AT発現の低下は、子宮内膜症の病巣でみられる炎症を、TLR3/4を介してさらに増強することが推察された。