【目的】
ARDS(急性呼吸窮迫症候群)は、惹起されたサイトカインストームが肺胞上皮障害や肺血管透過性を亢進させ、重篤な呼吸機能障害をきたす疾患である。一方、カルシトニン遺伝子関連ぺプチド(CGRP)は、炎症刺激などによって知覚神経終末から遊離される神経ペプチドである。CGRPは、CGRP受容体サブセットである受容体活性調節蛋白1(RAMP1, receptor activity modifying protein 1)を介して、抗炎症作用を示す。そこで、本研究では急性肺障害におけるRAMP1シグナルの関与を明らかにすることを目的とした。
【方法】
9~10週齢の雄性RAMP1欠損マウス(RAMP1KO)および野生型マウス(WT)を用いた。麻酔下に大腸菌由来LPS(5 mg/kg)を気管内投与し、急性肺障害を誘導し、ARDSモデルを作成した。経時的に肺組織および気管支洗浄液(BALF)を採取し、病理組織学的、qPCRによる遺伝子発現解析、蛋白質・サイトカイン測定、フローサイトメトリー解析などで肺障害を評価した。
【結果】
LPS投与後WTの生存率は100%であったが、RAMP1KOでは48時間以後死亡例が出現し、168時間後の生存率は60%であった。肺組織ではWTに比較してRAMP1KOで肺内炎症性細胞浸潤や出血がみられた。BALF中のタンパク量はLPS投与後6,24,48時間ならびに72時間後でWTよりもRAMP1KOで高値を示した。肺組織中およびBALF中のIL-6とCCL2の発現がWTよりもRAMP1KOで増加した。肺組織に集積する炎症性細胞をフローサイトメトリーで解析すると、LPS投与72時間では肺胞マクロファージは両群ともにLPS投与前よりも減少した。また両群ともにLPS投与後24時間から好中球が著明に増加したが、好中球数はWTよりもRAMP1KOで高値を示した。
【結論】
LPS誘導急性肺障害ではRAMP 1シグナルを介して炎症性サイトカイン産生や好中球集積を抑制し、肺血管透過性亢進を軽減することでARDSに対して保護的作用を示す可能性が示唆された。