【背景・目的】
近年、抗生物質の投与などによる腸内細菌叢の乱れ“Dysbiosis”がアレルギー性疾患の発症に関与する可能性が示唆されているが、その機構は明らかになっていない。生理活性脂質は免疫細胞を含む様々な細胞から産生され、アレルギー性疾患の発症にも関与する。本研究では、抗生物質の投与によるDysbiosisが、マウスの腸管における生理活性脂質の代謝産生異常を引き起こし、アレルギー反応を引き起こすと仮説だて、その検証を行った。
【方法・結果】
3種類の抗生物質を混合した溶液(Abx)をマウスに自由飲水にて与えた。このマウスに7日おきに3回、卵白由来アルブミンであるオボアルブミンを腹腔内投与した。その結果、Abxを投与しなかったマウスと比較して、Abxを投与したマウスでは抗原特異的IgE産生が有意に増加し、抗原刺激によるアレルギー反応が悪化した。腸内細菌叢の解析をおこなったところ、Abx投与は腸内細菌叢の多様性を減少させ、その組成を大幅に変化させた。次に、糞便中の生理活性脂質を、質量分析装置(LC-MS/MS)により解析した結果、糞便中にて検出された35種類全ての脂質の検出量がAbx投与によって減少した。特にアラキドン酸(AA)のシクロオキシゲナーゼ代謝物や、AAとドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)の5-リポキシゲナーゼ(5-LOX)代謝物、EPAとリノール酸(LA)のシトクロムP450代謝物などの減少が顕著であった。
【結論】
マウスモデルを用いて、抗生物質の投与によるDysbiosisが、抗原特異的IgE産生の増加とそれに伴う症状悪化を引き起こすこと、これには、腸内細菌叢の大幅な変化と、腸管における生理活性脂質の産生と代謝の減少が伴うことを明らかにした。