【背景】 我々は、マウス骨髄由来マスト細胞(BMMC)において、ATPのイオンチャネル型P2X4受容体とプロスタグランジン(PG)E2のGi共役型EP3受容体の共刺激が、BMMCの炎症性サイトカイン産生を著しく亢進させること見出した。本研究では、BMMCで遺伝子発現が認められる他のGi蛋白共役型受容体であるP2Y14およびアデノシンA3受容体とATPの共刺激で炎症性サイトカイン産生の亢進が認められるかEP3受容体刺激効果と比較検討した。
【方法】 細胞内Ca2+濃度 ([Ca2+]i)はFura-2蛍光法で測定した。サイトカイン遺伝子発現の変化はRT-PCR法で解析し、サイトカインの産生量はELISA法で測定した。細胞内シグナル伝達に関与するタンパク質のリン酸化は、Western Blottingで評価した。
【結果および考察】BMMCをPGE2、UDP-glucose、アデノシンで刺激すると、[Ca2+]iの上昇が認められ、その反応は受容体とGiの共役を阻害する百日咳毒素の前処理で抑制された。この結果から、各受容体は機能的にBMMC発現していると考えられた。これらのGi共役型受容体の刺激は、BMMCにおけるIL-6の遺伝子発現および分泌への影響はわずかであったが、ATPと共刺激を行うと、PGE2による応答が顕著に亢進したのに対し、UDP-glucose およびアデノシンの作用は弱かった。PGE2、UDP-glucoseおよびアデノシンは刺激後2分で最大になるERKおよびAktのリン酸化を惹起したが、ATPはこの反応に大きな影響を示さなかった。一方、PGE2、UDP-glucoseおよびアデノシンによるNF-κBのリン酸化に対して、ATPはPGE2との共刺激時のみNF-κBのリン酸化の亢進が認められた。この反応は、百日咳毒素で抑制され、P2X4受容体欠損マウスから作製したBMMCでは認めらなかった。以上の結果から、P2X4受容体刺激作は、Giに共役したEP3, P2Y14およびA3受容体のうち、EP3受容体との共刺激時に特異的にNF-κBのリン酸化を亢進させ、サイトカイン産生を増大させると考えられた。また、EP3受容体シグナルはP2Y14およびA3受容体のシグナルと異なる可能性があり、その違いの解析はマスト細胞のサイトカイン産生亢進機構の解明に重要と考えられた。