グルコースは生体のエネルギー代謝における中心的な分子である。血管内のグルコースである血糖に加えて、血管外の間質液グルコースは多くの細胞のグルコースの供給源として不可欠であり、血管内外のグルコース動態を理解することは生理的に重要である。腫瘍においてはその微小環境で間質液グルコースが減少して免疫細胞の働きが阻害されることが示唆されるが、適切な手法がなくグルコースの時空間分布の詳細は不明である。我々は、血管内外のグルコース動態を明らかにするため、グルコースを可視化する蛍光プローブの開発を行った。大腸菌のグルコース結合タンパク質mglBにシステイン変異を系統的に導入し、マレイミド基を有する蛍光色素を標識した後、グルコースの添加により蛍光変化する標識体を探索するハイスループットスクリーニングを行った。その結果、Oregon Green 488を標識したG217C変異体(以下GlucOS)は、グルコースとの結合に伴って約120%の蛍光増大を示し、解離定数は約1 mMであった。次に、血管内外のin vivoイメージング技術を確立するために、GlucOSにAlexa Fluor 647を標識したレシオ型蛍光プローブGlucOS-AFを作製して、マウスの耳介を対象にしたin vivoイメージングに応用した。静脈内に投与したGlucOS-AFは血中から約4分の半減期で速やかに消失し、また、GlucOS-AFは血管外へ分布して滞留することが観察された。さらに、血管内においても持続的なグルコースイメージングを可能とするため、アルブミン結合性の小分子ABを標識したGlucOSAB-AFを作製して静脈内投与を行ったところ、プローブの血中滞留性の向上が認められた。GlucOS-AFおよびGlucOSAB-AFをマウスに投与してin vivoイメージングを行い、グルコースの静脈内投与に応じた蛍光変化が生じることを確かめた。今後、実験系の精査を進め、腫瘍微小環境内におけるグルコース動態の可視化を行う計画である。