【背景と目的】吸入麻酔薬に催不整脈作用があることは臨床での経験則から認識されているものの、催不整脈作用の強度や特性を実験的に示した情報は少ない。本研究では、その評価方法をウサギ催不整脈モデルを用いて確立し、isofluraneとhalothaneが有する催不整脈作用特性の相違を電気生理学的手法により明確にすることを目的とした。
【方法】Isofluraneまたはhalothaneで麻酔したNZWウサギの体表面心電図および右室単相性活動電位(MAP)を記録し、完全房室ブロックを作製後より刺激間隔1000 msで右室を電気的に駆動した。実験1ではIKr遮断薬dofetilide(0.1, 1 µg/kg/min, iv)投与中に心室ペーシング時(刺激間隔300〜1000 ms)のMAP持続時間(MAP90)と有効不応期(ERP)を測定した。実験2では刺激間隔1000 msで同用量のdofetilideを投与し、不整脈の発生を観察した。
【結果】低用量のdofetilideはMAP90とERPをisoflurane群(I群、n=6)とhalothane群(H群、n=6)で同程度延長させた。高用量のdofetilideはMAP90とERPをさらに延長させたが、ERP測定時のペーシング不良事例や不整脈発生が散見され、延長作用の定量化は困難であった。ERP延長が刺激間隔を上回ると判断されたペーシング不全を抗不整脈作用と判定し、ERP測定中におけるdofetilideの作用を分析したところ、H群ではTdP出現を伴う催不整脈作用が多く観察されたが、I群では刺激間隔600〜1000 msで催不整脈作用が、刺激間隔300〜500 msで抗不整脈作用が認められた。実験2で、高用量のdofetilideでH群にTdPが6例中2例に発生したが、I群では認められなかった。
【結論】吸入麻酔薬が有する催不整脈作用特性をIKr遮断薬の催不整脈作用を修飾する効果を基準に、電気生理学的手法を用いて明確にする手法を確立した。Isofluraneとhalothaneはdofetilideによる催不整脈作用を促進するが、isofluraneは高頻度刺激条件においてdofetilideの有効不応期延長作用を促進することを通じ、halothaneと対照的に頻脈性不整脈の発生を抑制する効果を有することが示された。