目的:ウレタン麻酔は、他の麻酔薬と比較して、膀胱機能が維持されることが知られているが、非医薬品グレードで発がん性が疑われることから、麻酔薬としての使用が推奨されておらず、今後、他の麻酔薬に変更する必要性がある。本研究では、ラット蓄尿および排尿機能におよぼすウレタン麻酔とイソフルラン吸入麻酔の膀胱機能、膀胱神経活動への影響の違いを比較検討した。
方法:SD系雌性ラット(10週齢前後)を用い、以下を測定した。①血圧および膀胱内圧測定:麻酔後、頸動脈に血圧用カテーテル、膀胱頂部に膀胱カテーテルを留置した。膀胱内に持続的に生理食塩水を注入し、膀胱内圧と排尿量を記録した。②膀胱伸展受容一次求心性神経活動測定:麻酔後、膀胱頂部に膀胱カテーテルを留置し、左の骨盤神経に刺激電極を置き、椎弓切除後に両側性にL6後根神経を脊髄に合流する部位で切断した。膀胱内生理食塩水注入と骨盤神経電気刺激に応答する神経活動を左L6後根神経から単一レベルで導出、記録し、伝導速度によりAδ線維またはC線維に分類した。ウレタン麻酔では1.2 g/kgを腹腔内投与し、イソフルラン吸入麻酔では、麻酔導入時5%、手術時1.5-2%、測定時1.1-1.3%を吸入した(room air)。
結果:①血圧および膀胱内圧測定:ウレタン麻酔群(N=7)では、全例で規則的な排尿反射を認めた。イソフルラン麻酔群(N=8)では、2例が測定直後から、2例が測定途中から溢流性尿失禁となり、排尿反射が消失した。排尿反射が保たれていたラットを用いて解析すると、ウレタン麻酔群と比較して、基礎圧が有意に高値を示していた。他方、血圧は両群に違いはなかった。②膀胱伸展受容一次求心性神経活動:ウレタン麻酔群(N=12)に比べイソフルラン麻酔群(N=13)では、AδおよびC線維の両者の神経活動性は、有意に高値を示した。膀胱コンプライアンスは、イソフルラン群で高い傾向が認められた。
結論:ウレタン麻酔に比べイソフルラン麻酔では、排尿反射が不安定で、排尿機能が低下し、蓄尿時の膀胱伸展に伴う求心性神経活動は増大していた。この生理的意義および背景因子の検討が今後必要と考えられた。ウレタン麻酔とイソフルラン麻酔のラット膀胱機能に対する作用に違いが示された。