【目的】 高反応性の α-ジカルボニル化合物であるメチルグリオキサール (MGO) は、生体内において、様々な生理機能へ影響を及ぼし、血管機能をも変化させうる可能性が指摘されている。我々は、ラット頸動脈において、細胞外ヌクレオチドの一つである uridine diphosphate (UDP) が収縮反応引き起こし、UDP誘発収縮反応が MGO の急性処置により増大することを明らかとしたが、頸動脈におけるヌクレオチド誘発弛緩反応に対する MGO の影響は不明であるため検討した。【方法】 雄性 Wistar rat より頸動脈を摘出し、リング標本をオルガンバスへ懸垂した。Phenylephrine 収縮下における acetylcholine (ACh)、sodium nitroprusside (SNP)、adenosine triphosphate (ATP)、uridine triphosphate (UTP) の累積反応を検討した。ATP、UTP 誘発弛緩反応に関し、一酸化窒素合成酵素 (NOS) 阻害薬、非選択的シクロオキシゲナーゼ(COX) 阻害薬、P2Y2 受容体拮抗薬存在下について検討した。また、抗酸化薬である Nアセチルシステイン(NAC) 前処置下による影響についても検討した。【結果 及び 考察】 頸動脈において、ACh 誘発弛緩反応、SNP 誘発弛緩反応は非処置群とMGO (420 microM for 1h) 群との間で変化が認められなかった。一方、ATP 並びに UTP 誘発弛緩反応は、MGO 群で非処置群と比較して減弱が認められた。ATP、UTP 誘発弛緩反応は、NOS 阻害下、P2Y2 受容体拮抗薬存在下、COX 阻害下において両群の差が消失した。また、MGO 処置前に NAC を処置することで、ATP、UTP 誘発弛緩反応の増大が認められた。これらより、ラット頸動脈では、MGO 急性処置により ATP や、UTP といったヌクレオチドによる弛緩反応が減弱し、これらの弛緩反応の減弱には、P2Y2 受容体シグナル、NO シグナルの減弱や血管収縮性プロスタノイドの増大、酸化ストレスが関与することが示唆された。