【目的】心不全は生命予後が極めて不良な疾患であり、その発症の過程において個々の心筋細胞が肥大していることから、心筋細胞肥大を抑制することが、心不全の予防・治療に繋がると期待されている。当研究室では、核内転写コアクチベーターであるp300のヒストンアセチル化酵素 (HAT) 活性が心筋細胞肥大や心不全の進展に重要な役割を果たしていることから、p300-HAT 活性は新たな心不全の治療標的となると考えられる。本研究では心不全発症に関与するp300結合タンパク質を同定し、p300/GATA4経路との関連を調べ、心筋細胞肥大に対する役割を解明することを目的とした。
【方法・結果】心臓特異的FLAGタグ付p300過剰発現マウスの心臓からDignam法によりタンパク質を抽出後、抗FLAG抗体アフィニティー担体にて免疫沈降により、p300結合タンパク質(p300binding proteins : p300BPs)を精製し、LC-MS/MS解析にて195のp300BPsを同定した。その中の1つである新規p300結合タンパク質1(p300 binding protein 1 : p300BP1)に着目した。Sf-9細胞にて作成されたリコンビナント全長p300及びp300BP1を用いたプルダウンアッセイの結果、p300BP1はp300と直接結合していた。初代培養心筋細胞でp300BP1をsiRNA法によりノックダウン(KD)させ、フェニレフリン(PE)にて刺激を行った。また、レンチウイルスによりp300BP1を過剰発現させた。48時間培養後、α-actinin陽性心筋細胞面積測定並びに心肥大マーカーであるANF及びBNPのmRNA量の測定を行った。その結果、p300BP1のKDによりPEによる心筋細胞面積やANFとBNPのmRNA量の増加は有意に抑制された。p300BP1の過剰発現は、心筋細胞面積、ANFやBNPのmRNA量を有意に増加させた。最後に、ANF-lucとBNP-luc、及びp300、GATA4、p300BP1をHEK293T細胞にトランスフェクションし、レポーターアッセイによりプロモーター活性を測定したところ、p300/GATA4共発現により上昇したANFやBNPのプロモーター活性はp300BP1によりさらに亢進した。
【結論】p300BP1はp300/GATA4経路を介して心筋細胞肥大反応を誘導していることが示唆された。今後、p300BP1とp300との関連、心筋細胞肥大への作用を詳細に解析することで、心筋細胞肥大時の転写調節機構の解明並びに核内シグナル経路を標的とした新規心不全治療薬の開発に繋がること期待される。