【目的】Vaughan Williams分類第Ⅰ群の抗不整脈薬は、心筋の興奮時に流れるNa+電流成分(Peak INa)を遮断することで、伝導を遅延させる。各種不整脈の治療に用いられ、Na+電流遮断作用を有する新たな抗不整脈薬も開発されつつあるが、第Ⅰ群の抗不整脈薬の副作用として知られる催不整脈性や陰性変力作用には注意が必要である。陰性変力作用に関しては、薬物間の差異を直接的に比較した情報は限られている。そこで本研究では第Ⅰ群抗不整脈薬の摘出心室筋収縮力に対する影響を同一実験条件で比較し、陰性変力作用の機序について検討した。
【方法】Hartley系雄性モルモットから右心室乳頭筋標本を作製し、閾値の1.5倍の電圧で定頻度電気刺激を与え、Krebs-Henseleit栄養液またはHigh K+栄養液中で収縮力を測定した。
【結果】全ての第Ⅰ群抗不整脈薬が陰性変力作用を示したが、その強さは薬物毎に異なっていた。陰性変力作用はaprindine, cibenzoline, propafenoneで強く、disopyramide, flecainideで中程度、mexiletine, pilsicainideではわずかであった。この傾向は刺激頻度を2.0Hzに高めた条件下、あるいはNa+チャネルが不活性化されるHigh K+溶液中で測定した場合もほぼ同様であった。薬物間での陰性変力作用の差異は、過去に報告されているL型Ca2+チャネル遮断作用の強弱と相関した。
【考察・結論】第Ⅰ群抗不整脈薬の陰性変力作用に薬物間で差異が生じる原因として、L型Ca2+チャネル遮断作用の強弱の影響が大きいことが判明した。既存のⅠ群抗不整脈薬からの薬剤選択や、新たな作用様式を有するNa+チャネル遮断薬開発の際に、L型Ca2+チャネル遮断作用の強弱を考慮することの重要性が示唆された。