口腔顔面領域に侵害刺激を繰り返し入力すると、異常疼痛が惹起されると共に、島皮質の局所神経回路に可塑的変化が起こることが知られている。Parvalbumin陽性細胞(PV細胞)は、抑制性ニューロンの中でも約半数を占めており、興奮性ニューロン(錐体細胞)との結合率が極めて高く、振幅の大きい抑制性シナプス後電流(IPSC)を発生させて、錐体細胞を強力に抑制する。そこで本研究では、光遺伝学的手法を用いてPV細胞を特異的に活性化し、興奮性細胞を抑制することにより疼痛制御が可能か否かを検証した。実験には、channel rhodopsin-2(ChR2)ならびに赤色蛍光タンパクを発現させるアデノ随伴ウイルス(AAV5-EF1α-Flex-hChR2(H134R)-mCherry;AAV)をLE-Tg(Pvalb-cre)2Koba(+/m)PVラット(PV-Creラット)に注入した動物を用いた。まず、島皮質を含む急性脳スライス標本を作製し、ホールセルパッチクランプ法にて記録した。その結果、青色光刺激によって島皮質のPV細胞では活動電位が発生し、錐体細胞ではIPSCが記録されたことから、同動物においてPV細胞特異的にChR2が発現していることが確認できた。次に、AAVを注入したPV-Creラットの島皮質に光照射ファイバーを留置し、頭部に固定装置を装着した行動実験モデルラットを作製し、光刺激によって侵害刺激に対する逃避行動に変化が見られるか検討した。侵害刺激は、行動測定用のアクリル円盤上でラットの頭部を固定し、頬の表面に1500 msの赤外線レーザー(0.35-0.46 J/mm2)を照射して行った。ラットが逃避行動を示すとアクリル円盤が回転するため、その回転量から逃避行動を定量化した。その結果、無刺激時(コントロール)と比較して、赤外線レーザー刺激時には回転量が増加し、赤外線レーザーと同時に青色光刺激を行うと、赤外線レーザー刺激時と比較して回転量が有意に減少した。このことから、青色光刺激によりPV細胞が活性化されることで、錐体細胞への興奮性入力が減弱し、逃避行動が抑制されたと考えられた。したがって、島皮質の神経活動を光刺激によって制御することで疼痛を抑制することが可能であり、将来的には口腔顔面領域の難治性の異常疼痛の治療に応用できる可能性がある。