【目的】頭部外傷 (Traumatic brain injury: TBI) は事故や転倒などの際に頭部を強打することで惹起され、Blood-brain barrier (BBB)の破綻によって脳に致命的なダメージをもたらすが、有効な治療薬は確立されていない。本研究では、TBIの病態に関わる因子としてヒスタミンとその受容体の一種であるH2受容体に注目し、TBIマウスのBBB破綻に対するH2受容体作用薬の効果とその機序を確認した。
【方法】Fluid percussion装置による水圧によってマウス(雄性ddY, 6-7 週齢)にFluid percussion injury (FPI) によるTBIを与えた。BBBの破綻は尾静脈投与したEvans blueの脳組織への漏出により評価した。H2受容体の発現はウエスタンブロットと蛍光免疫組織染色により確認し、血管修復因子 (angiopoietin-1, sonic hedgehog)の発現はReal-time PCRにより確認した。H2受容体作用薬amthamine およびdimaprit (2, 10, 50 mg/kg)はFPIの3時間後から3日後まで1日1回尾静脈投与した。また、脳組織への直接作用を確認するためにamthamineおよびdimaprit (20, 100, 500 nmol/日)、H2受容体拮抗薬ranitidine (20, 100, 500 nmol/日)を側脳室内投与した。
【結果・考察】FPI後の脳組織ではEvans blueの漏出が顕著にみられ、BBBの破綻が確認された。H2受容体の発現はFPI後に増加し、脳血管内皮細胞と活性型アストロサイトにおいて発現が観察された。Amthamineおよびdimapritの尾静脈投与によりBBBの破綻は抑制され、側脳室内投与した場合でも抑制された。Amthamineおよびdimapritを投与した脳組織では、血管修復因子の発現量が増加していた。AmthamineとdimapritのBBB破綻に対する抑制作用と血管修復因子の増加作用はranitidineとの併用により阻害された。本研究結果より、H2受容体作用薬は血管修復因子を増加させることによってBBBの破綻を抑制できることが示唆され、TBIに対する新規治療薬の候補となり得ることが期待される。