リゾホスファチジン酸(Lysophosphatidic acid、LPA)は血中に豊富に存在する生理活性物質であり、少なくとも6種類のLPA受容体(LPAR, LPAR1-6)が存在する。LPAおよびその受容体による生理機能として、血管新生や脈管形成など血管の対する作用が多く報告されている。血管機能の調節は血管内皮細胞の機能変化による直接的な影響を受けるが、血管内皮細胞の機能はその周囲の細胞により制御されることが知られる。脳では血管周囲のぺリサイトが血液脳関門の形成や維持に関わるなど、重要な役割を担っている。また血管周囲細胞でもLPA受容体の発現が認められているものの、ぺリサイトに対するLPAの作用に関しては不明な点が多い。そこで本研究では、LPAがぺリサイトに与える作用を検討した。
 まず、公開されているデータベースよりマウス脳ぺリサイトにおける遺伝子発現比率を検索し、LPAR1,4,6がLPAR2,3,5より高く発現する様子を検出した。そこでタンパク質レベルでの発現を検討するため、3週齢のC57BL/6Jマウスより脳ぺリサイト培養を調整し、LPA1,4,6タンパク質が発現することを確認した。続いてLPA受容体の活性化によるぺリサイトへの作用を検討するため、ぺリサイトの増殖および遊走への作用を評価した。観察した範囲内では、LPA添加により増殖細胞数に変化はなかった。一方、Transwellにぺリサイトを播種し、LPA存在下で培養した後にTranswell下層に遊走する細胞数を計測したところ、LPA添加により遊走するぺリサイトの数が増加した。また、LPAR1阻害剤であるAM095とLPAを共処置することでLPAによる遊走促進が妨げられた。さらに、このLPAR1を介したLPAによる遊走促進効果は、ヒト脳由来の培養ペリサイトでも同様に観察された。
 以上の結果より、LPAはLPAR1を介してペリサイトの遊走を促進させることが示唆された。LPAやLPAR1のぺリサイトへの作用は、間接的に血管系の機能維持に寄与している可能性が考えられる。