【目的】末梢脂質センサーであるGPR120は腸管に発現しており、食事中の多価不飽和脂肪酸(PUFA)をリガンドとしてglucagon-like peptide (GLP) -1を分泌すること、さらにはGPR120機能不全が肥満を引き起こすことが知られている。また生活習慣病が認知症のリスクを高めることが知られ、GPR120の機能不全は認知症の引き金となる可能性が考えられる。本研究は、腸管GPR120と脳内海馬神経細胞の間に存在する腸脳相関の解明を目的とした。
【方法】腸管におけるPUFA/GPR120シグナルと脳内神経炎症との関係性を解明するために、GPR120ノックアウト(KO)マウスの神経炎症、神経機能、記憶学習能を評価した。
【結果】GPR120KOマウス海馬において、神経炎症(Prostaglandin(PG)D2産生増加、ミクログリア活性化)、神経変性(神経新生の減少、海馬体積の減少、記憶学習能の低下)が見られた。またGPR120KOマウスの腹腔内へのリラグルチド(GLP-1アナログ) 持続的投与、インドメタシン含有飼料によるPGD2産生阻害により、海馬における神経炎症・神経変性が抑制された。
【考察】GPR120KOマウスの海馬においてPGD2-ミクログリア誘発性神経炎症・神経変性が、無刺激の状態でも常に起きていることが明らかとなった。またPGD2産生阻害、末梢GLP-1生理活性の増強により神経炎症・神経変性が抑制された。GPR120 mRNAは腸管組織において発現していたが、脳組織においては検出されなかった。GPR120KOマウスのPGD2-ミクログリア神経炎症・神経変性は、腸管のGPR120機能不全によって引き起こされていることを示している。GPR120KOマウスは、腸管におけるGLP-1分泌が低下し、GLP-1が脳内に到達する量が減少する。脳内GLP-1生理活性の低下により、GPR120 KO海馬ではミクログリア活性化を抑制することができない。その結果、活性酸素種(ROS)が増加、神経新生の低下が起きると考えられる。食事中のPUFAが腸管GPR120受容体を刺激することにより、腸管から分泌されたGLP-1が脳内に到達しミクログリアに作用することによって、PGD2-ミクログリア神経炎症を抑制し、海馬のホメオスタシスに寄与していると考えられる。