Interleukin-1 receptor accessory protein-like 1(IL1RAPL1)は非症候性のX染色体連鎖型知的障害、自閉症のリスク遺伝子の一つである。シナプス後膜のIL1RAPL1は、シナプス前終末に局在する受容体型チロシン脱リン酸化酵素PTPδと結合することで興奮性シナプス形成を制御している。これまでに遺伝子ノックアウトマウスを用いた研究からIL1RAPL1の生理的役割が明らかにされてきた。その一方で、IL1RAPL1には免疫組織染色に使用できる抗体が無いために脳内分布および神経細胞内での分子局在の詳細については未だ明らかにされていない。そこで本研究では、IL1RAPL1の分子局在を明らかにする目的で、IL1RAPL1分子へのエピトープタグの挿入を検討した。初めに、膜受容体に対して多くの実績が報告されている細胞外N末端へのタグ挿入を検討した。シグナル配列の直後にHAタグを挿入したIL1RAPL1をHEK293T細胞に発現させると、抗HA抗体を用いた免疫染色により細胞膜表面にシグナルが検出された。しかしながら、PTPδの結合時には抗体によるHAタグの検出が出来なかった。我々は、HAタグが検出できない原因はPTPδがIL1RAPL1の細胞外末端に被さるようにして複合体形成しているためであると考え、IL1RAPL1-PTPδ複合体の立体構造を基にタグ挿入位置を検討した。IL1RAPL1の細胞外領域の3つの免疫グロブリン様ドメイン(Ig1~3)のヒンジ領域にHAタグを挿入したところ、Ig1とIg2のヒンジ領域にHAタグを挿入した場合にはPTPδとの複合体形成時においても抗体によるHAタグ検出が可能であった。このIg1とIg2のヒンジ領域にHAタグを挿入したIL1RAPL1はタグを挿入していないIL1RAPL1と同程度の解離定数でPTPδと結合していた。さらに、これらを発現させたHEK293T細胞と大脳皮質初代培養神経細胞との共培養系を用いてシナプス誘導能を解析したところ、シナプス前終末の分化誘導にも差は認められなかった。これらの結果は、Ig1とIg2のヒンジ領域へのHAタグ挿入はIL1RAPL1の分子機能を阻害しないことを示唆している。本研究成果は、IL1RAPL1の分子局在を明らかにする上での重要なツールの開発に繋がると期待される。