神経細胞は、神経細胞新生、神経細胞移動、神経突起分岐伸展、そしてシナプス形成の4つの時期を経て発達する。各時期の神経細胞発達の異常が、自閉スペクトラム症に代表される発達障害や統合失調症、またはてんかんなどの原因になると考えられている。
これら4つの発達時期は、それぞれの時期に発現する転写因子によって一群の遺伝子・タンパク質の発現が活性化することによって緻密に制御されている。一方で、タンパク質発現の制御に重要であるタンパク質分解がどのように神経細胞の発達に重要か十分に明らかになっていない。私どもはこれまでタンパク質分解の制御に重要なユビキチン化の神経細胞発達における機能を研究してきた。ユビキチン化の基質特異性はE3リガーゼによって決定される。約600種類のE3リガーゼ遺伝子が哺乳類のゲノムにコードされているが、その中でもNedd4ファミリーに属する遺伝子とその相同遺伝子の機能に注目して私どもは研究を進めてきた。これらの遺伝子が神経細胞発達で別の時期に固有の基質をユビキチン化することで神経細胞発達の制御に重要な働きを示すことを、主に生化学的手法を駆使して明らかにしてきた。
2020年に群馬大学に着任後、これらの仕事の延長として発達障害の原因遺伝子でE3リガーゼをコードする遺伝子に注目して研究を展開してきた。この研究と並行して、3次元で高解像度が得られる超解像3D-Stimulated Emission Depletion (STED)顕微鏡を駆使して個々のシナプスの形態を観察する研究を展開しつつある。
本講演では、特異的ユビキチン化が脳神経回路の発達にどのように重要か、そしてその異常がどのように発達障害につながるかについて、超解像3D-STED顕微鏡を取り入れて得られた最新の知見を説明したい。