受容体作動性カチオンチャネルの分子実体と考えられるtransient receptor potential canonical (TRPC) タンパク質は、様々な生理機能発現のみならず、心不全などヒト疾患の発症・進展にも関わる重要な創薬標的分子である。我々は脂質作動性のTRPC3とTRPC6のヘテロ多量体チャネルの発現増加が様々な物理化学的刺激による心筋細胞の肥大化を仲介することを最初に見出した。しかしその後、TRPC欠損マウスを用いた心機能解析から、TRPC3とTRPC6がそれぞれ独立した機能を有することがわかってきた。例えばTRPC3タンパク質は、病態特異的に活性酸素生成酵素NADPH oxidase 2とタンパク質複合体を形成することで、酸化ストレスを伴う心筋萎縮を誘導することを明らかにした。一方、TRPC6チャネルは重金属イオン、特にZn²⁺を透過することで、圧受容反射による心臓の陽性変力作用を増強させることを最近見出している。本シンポジウムでは、心臓を用いて見出されたTRPC3/6タンパク質の新たな機能と、それらを標的とする創薬戦略の可能性について紹介する。