肺静脈の起始部には心房筋から連続する心筋細胞層が存在する。心房細動の引き金となる心房性期外収縮の約90%が肺静脈起源であると報告されたこともあり、肺静脈心筋がいかなる性質を有するのか注目されている。我々が記録したモルモット肺静脈心筋の電気的自発活動は、洞房結節自動能と同様に、緩徐脱分極を有していた。また肺静脈心筋の活動電位は左心房筋と比較して静止膜電位が浅く、これは内向き整流性K+電流密度が小さいことに起因することが判明した。すなわち肺静脈心筋は再分極力が弱く、緩徐脱分極およびそれに続く自発活動の発生を許容しやすい性質を有すると考えられた。また単離肺静脈心筋細胞では自発的なCa2+オシレーションが観察され、自発活動の発生頻度は、細胞内Ca2+濃度を上昇させる処置によって増大した。薬理学的検討の結果、筋小胞体からの放出により細胞質の局所で増加したCa2+がNa+/Ca2+交換機構により細胞外にくみ出される際に内向き電流が生じ、これが肺静脈心筋の自発活動の源となる、という仮説に到達した。この機序以外にも、Na+チャネルを介した持続性の電流成分であるlate INaが自発活動の発生に関与しており、新規の創薬標的となることも示唆された。なお、現在心房細動の治療薬として用いられているⅠ群抗不整脈薬(Na+チャネル遮断薬)の中にも、late INa遮断作用を有し、肺静脈心筋自発活動を抑制する薬物が存在することが明らかになった。さらに、肺静脈自発活動の発生は神経伝達物質や病態によっても影響されることを示す知見も得ている。このように肺静脈自動能に関与する分子や病態との関連が明らかになれば、肺静脈選択的な治療薬の開発に繋がると期待される。