メタボリックシンドロームは内臓型肥満に、耐糖能異常またはインスリン抵抗性、高血圧、高中性脂肪、低HDL血症などの代謝性危険因子が組み合わさり、心臓病や脳卒中などの動脈硬化性疾患を引き起こしやすい病態である。メタボリックシンドロームは栄養の過剰摂取などエネルギーのバランスが崩れている、もしくはエネルギー代謝調節機能に異常のある状態である。脂肪細胞は、熱産生に伴いエネルギーを消費し肩甲骨間などに胎児期より存在する褐色脂肪細胞、寒冷暴露などにより誘導されて熱産生に伴いエネルギーを消費するベージュ脂肪細胞、脂肪滴としてエネルギーを貯蔵する白色脂肪組織の3種類にわけられる。褐色脂肪細胞およびベージュ脂肪細胞の熱産生は体温維持のために寒冷暴露によって亢進される。褐色脂肪における熱産生は、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化を脱共役させエネルギーを直接熱へと変換することで生じる。
 私たちは、機械刺激感受性チャネルの1つであるTRPV2が脂肪細胞に強く発現し、褐色脂肪において熱産生に関与していること、及び褐色脂肪細胞の分化の過程においてTRPV2の活性化に伴う細胞内へのCa2+流入は分化を抑制することを明らかにしている(Sun et al. 2016)。一方、TRPV2は白色脂肪組織にも発現するがTRPV2の活性化は白色脂肪細胞の分化には影響しなかった。白色脂肪細胞においては、低浸透圧などの機械刺激によって活性化されるTRPV4が分化に関与していることを見出した。
 褐色細胞細胞への機械刺激は分化を抑制するが、この作用はTRPV2阻害薬によって部分的しか回復しないことから他の機械刺激感受性チャネルの関与が示唆された。他の機械刺激感受性チャネルの発現を検討した結果、Piezo1が褐色脂肪細胞において発現しており、Piezo1が分化に関与することを見出した。
本発表では、褐色脂肪並びに白色脂肪に発現する機械刺激感受性チャネルの役割について紹介し、機械刺激感受性チャネルがエネルギー代謝に関連する疾患治療のターゲットとなる可能性について議論したい。