【背景】
近年、飲酒の習慣がないにも拘わらず、肝細胞に中性脂肪が蓄積する脂肪性肝疾患が急増しており、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれる。NAFLDはメタボリック症候群の肝臓病と呼ばれ、その25%は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)となり、さらに肝硬変、肝がんへと進展する。またNAFLDは心血管イベントの危険因子でもある。このため、NAFLDの進展を抑制することは大きな課題となっている。一方、神経系と免疫系とが相互作用することによって、炎症が制御されることが最近、明らかになってきた。われわれは、神経ペプチドであるカルシトニン遺伝子関連ペプチドCGRPがCGRP受容体である受容体活性調節蛋白1(RAMP1)に作用して、急性腸炎、腹膜炎、肝炎症などの炎症を抑制することを報告してきた。
【目的】
そこで、本研究ではRAMP1シグナルはNAFLDの炎症を抑制してNASHへの進展を制御する可能性があるかどうかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
野生型マウス(WT)およびRAMP1ノックアウトマウス(RAMP1 KO)に高脂肪食(HFD)または普通食(ND)を12週間給餌した。脂肪肝活動性を評価するために血清ALTレベルを測定、組織学的にNAFLD活動性スコアー(肝組織像から脂肪化、炎症、肝細胞風船化をスコア―化)を調べ、肝線維化を線維化関連遺伝子発現やSiriusRed染色などで評価した。
【結果】
NDを給餌したWTとRAMP1 KO とでは体重、ALT値、コレステロール値、脂肪肝活動性などには差はなかった。HFDを給餌したRAMP1 KOではWTよりも体重、肝重量、内臓(腎周囲)脂肪量、血清コレステロール値、血清ALT値、肝組織像から評価されるNAFLD活動性スコアーおよび肝線維化マーカー(Collagen1a1,alphaSMA), SiriusRed陽性面積が増悪した。また炎症性サイトカインTNF,IL-1などの遺伝子発現がRAMP1 KOで増加した。
【結論】
RAMP1シグナルは脂肪負荷による肝内の炎症や線維化を軽減することでNAFLDからNASHへの進展を抑制する可能性が示唆された。