血管平滑筋において細胞外からのカルシウム(Ca)流入の重要性は、興奮収縮連関および興奮転写連関と多岐にわたる。血管平滑筋におけるCa透過性チャネルはL型電位依存性Caチャネル(CaV1.2)、ストア作動性Caチャネル(SOC)、transient receptor potentialなど多く報告されている。しかしながら、これらチャネル間の相互作用あるいは相反作用が、どのように血管平滑筋の細胞応答を形成するのかは未だ明らかにされていない。本研究では、血管平滑筋細胞における、CaV1.2とSOCの相互作用およびその相反作用の分子メカニズムの解明を目的とした。各種血管収縮因子に惹起される血管収縮にCaV1.2とSOCの抑制が与える影響を明らかにするため、ラット摘出大動脈リング標本を用いた収縮試験を行った。Cav1.2とSOCの阻害薬としてそれぞれニフェジピン(Nif)、GSK7975Aを用いた。その結果、ノルアドレナリンはSOC、フェニレフリン、エンドセリンについては、CaV1.2とSOC双方、バソプレッシン(AVP) は主としてCaV1.2によるCa流入により平滑筋収縮を惹起させることを明らかにした。血管収縮因子は、血管平滑筋細胞に神経栄養因子(NGF発現を誘導する作用があることが知られる。そこで、ラット大動脈平滑筋細胞株A7r5細胞を用いて、AVP刺激に誘導されるNGFのmRNA発現を解析した。その結果、AVPによるNGFのmRNA発現上昇は、GSK7975Aによりほぼ完全に抑制されたが、Nifによる効果は見られなかった。即ち、AVP刺激は、筋収縮と転写活性という異なる細胞応答を導くため、CaV1.2とSOCそれぞれ異なるCa流入経路を利用することが示唆された。これまでにSOCの重要な制御因子であるSTIM1はSOCの活性化と共にCaV1.2のチャネル活性を抑制することが報告されている。本研究においても、STIM1は、CaV1.2の形質膜表面での発現を制御する機能を有することを明らかにした。これらCaV1.2とSTIM1の分子間相互作用が、如何に細胞応答の相互排他性につながるかを今後明らかにしていきたい。