【目的】悪性新生物は日本における死亡原因第1位の疾患であるが、がん化学療法や放射線療法が目覚ましい進歩を遂げ、悪性新生物の予後は向上している。しかし、抗がん剤の中には循環器系の副作用を有し、悪性新生物患者の生命予後やQOLを低下させる要因となるものがある。中でもアントラサイクリン系の抗がん剤であるDoxorubicin (DOX) は心筋毒性を示す薬物として広く知られている。当研究室ではポリメトキシフラボノイドであるNobiletin (NOB) が心不全に対して心保護作用があることを見出した。本研究では、NOBがDOXによる心筋障害に対して保護効果を示すのか検討した。
【方法】ラット心臓由来H9C2細胞をNOBで2時間処理後、DOX (1 μM) で24時間培養した。MTT assayを行うことで、細胞死抑制効果を検討した。さらに、DOXを添加して後12時間培養し、cleaved-caspase3及び9の発現量をウェスタンブロッティング法 (WB) にて評価した。また、NOBについてin vivoで検討するため、8週齢のC57BL/6JマウスにDOX (20 mg/kg) の腹腔内投与を行い、NOB (20 mg/kg/日) の連日経口投与を15日間行い、生存率を評価した。さらに、心機能評価のため投与後7日目に、心臓超音波検査を行った。
【結果】MTT assayの結果、DOX群で32.9%まで低下した細胞生存率は、NOBにより70.4%まで有意に改善した (p<0.01) 。WBの結果、DOX群でcleaved-caspase3及び9の発現量は増加したが、NOBで抑制した。in vivoでの検討の結果、DOX投与より11日目で0%まで低下した生存率は、NOB群では50%であった (p<0.05) 。DOX投与により左室内径短縮率は47.9%まで低下したが、NOB投与により58.2%まで回復した (p<0.01) 。
【考察】本研究より、NOBはDOX投与による心筋細胞傷害を抑制し、心機能低下を改善することが示された。今後、より詳細なメカニズムの検討を行うことで、DOX治療に伴う心毒性の新規予防法の開発につながることが期待される。