【目的】我々は、心肥大期から心不全期にかけてSWI/SNF複合体の主要な構成因子であるBRG1とヒストンアセチル化酵素であるp300が協調的に働くことでヒストンの球状ドメインのアセチル化修飾部位であるH3K122のアセチル化を亢進することを示した。しかしながら、BRG1の阻害により心筋細胞肥大や心不全の進展が抑制されるかどうかは分かっていない。そこで本研究ではBRG1阻害剤であるPFI-3を用いて、フェニレフリン(PE)による心筋細胞肥大や圧負荷心不全に対してどのような効果を与えるか検討した。
【方法】ラット初代培養心筋細胞にPFI-3を処理し、2時間後にPEにて48時間刺激した。心筋細胞を免疫染色後、面積測定により心筋細胞肥大、qRT-PCR法により心肥大反応遺伝子ANF、BNPのmRNAレベル、ウエスタンブロット(WB)法によりヒストンのアセチル化について解析した。続いて心不全モデル動物におけるPFI-3 の効果を検討するため、transverse aortic coarctation (TAC) 手術を施したマウスを2群に分け、手術の翌日から、VehicleあるいはPFI-3 (10 mg/kg) を浸透圧ポンプにより8週間投与した。投与終了後に心機能評価のため心臓超音波検査を行い、心体重比や心脛骨長比の測定を行った。
【結果】心筋細胞面積測定を行った結果、PE刺激による心筋細胞の肥大はPFI-3の10 μMで有意に抑制された。また、qRT-PCR法を行った結果、PFI-3は10 µMでPE刺激によるANF、BNPのmRNA量の増加を有意に抑制した。次にWB法を行った結果、PE刺激によって亢進したヒストンのテールドメインのH3K9やH3K122のアセチル化はPFI-3により抑制された。最後にTAC手術を施したマウスにPFI-3を投与し、心臓超音波検査を行った結果、PFI-3はTACによる左室後壁厚および左室内径短縮率の低下を改善した。さらにPFI-3はTACによる心体重比および心脛骨長比の増加を改善した。
【考察】BRG1の阻害により心筋細胞肥大および心不全の進展が抑制されることが示唆された。