【目的】我々はヒストンアセチル化酵素p300が心不全の発症・進展に重要な役割を持つこと、天然物クルクミン (Cur) はp300のHAT活性を抑制し、心不全の進展を改善することを見出した。Curのα, β不飽和βジケトン鎖をピラゾール環に置換したPyrazoCurcumin (PyrC)、加えてベンゼン環の 5位にプレニル基を付与したPrenylated pyrazol Curcumin (PPC) が炎症サイトカインに対しCurよりも特異的かつ強力な抑制効果を示したが、p300のHAT活性に対する効果は検討されていない。そこで本研究では、これらがCurよりも強力に心筋細胞肥大を抑制するかどうかについて比較検討した。
【方法&結果】培養心筋細胞を用いた実験で、PyrC はCurよりも1/3倍の低濃度で有意にフェニレフリン(PE)による心筋細胞肥大を抑制したが、PPCはCurと同濃度で心筋細胞肥大を抑制しなかった。またPyrCはqRT-PCRで同様にPEによる肥大反応因子であるANFとBNPの増加を抑制した。次に、in vitro HATアッセイの結果、PyrC は直接的なp300-HAT活性阻害作用を示さなかった。そこで、心筋細胞を用いてp300の活性を制御しているAkt、ERK1/2、p38及びCdk9に対するCur、PyrCの効果を検討したところ、いずれもAkt、ERK1/2、p38のリン酸化には影響を与えなかったが、PyrCはCurより低濃度でPEによるCdk9のターゲットであるRNAポリメラーゼIIの C末端ドメインのセリン2のリン酸化を抑制した。免疫沈降法及びGST-pull downアッセイの結果、PyrCはCurよりも1/10倍の低濃度でCdk9/CyclinT1結合阻害作用を示した。さらに、免疫沈降法によりp300のリン酸化を検討した結果、PyrCはCurよりも1/3倍の低濃度でp300のリン酸化を抑制した。
【考察】本研究によりPyrCはCdk9/CyclinT1の形成を阻害することで、間接的にp300-HAT活性及び心筋細胞肥大反応を抑制していることが示唆された。今後、PyrC を用いた動物実験を行うことで、Curよりも強力な心不全治療の開発に繋がることが期待される。