【目的】高血圧や心筋梗塞といった全ての心疾患の最終像は心不全であり、非常に予後の悪い病態として知られている。そのため心不全の予防・治療法を確立することは非常に重要である。心臓に負荷がかかると収縮不全となるが、この間個々の心筋細胞は肥大することから、心筋細胞肥大は治療ターゲットとなることが示唆されている。そこで本研究では、心筋細胞肥大を指標に化合物ライブラリーからハイスループットスクリーニングを行うことで、心不全の抑制効果のある新規心不全治療薬の候補の探索を行った。
【方法・結果】初めにスクリーニング系の妥当性を評価するために新生仔ラット初代培養心筋細胞を48wellプレートに播種し、心筋細胞肥大を抑制することの分かっているCurcumin並びにα1 アドレナリンアンタゴニストであるPrazosinで処理した。2時間後、細胞をフェニレフリン (PE) で48時間刺激し、抗α-actinin抗体にて心筋細胞の染色を行った。その後、ArrayScanTM System (Thermo Scientific, USA) を用い、蛍光イメージングを行い、隣接していない単核のα-actinin陽性心筋細胞の細胞面積を測定した。その結果、Curcumin、Prazosin共に有意な抑制効果がみられ、本スクリーニングが妥当であると示唆された。次に、既知活性物質や承認医薬品を集めたオリジナル化合物ライブラリーを用いて、スクリーニングを同様の方法で行った。化合物は全て最終濃度が1μMになるように処理した。ヒット化合物の絞り込みは、心筋細胞肥大抑制率で定め、PE処理無しに比べPE処理で増加した面積を100%とし、心筋細胞肥大抑制率が >50%, <150%の範囲をヒット化合物として抽出した。合計269個をスクリーニングし、心不全に対する効果が知られている化合物を除くと、心筋細胞肥大反応を抑制する化合物が21個同定された。最後に濃度依存的な心筋細胞肥大反応の抑制と、肥大反応遺伝子であるANF, BNPの転写抑制を指標にさらに化合物を絞り込んだところ、9個の化合物が同定された。
【考察】以上の結果より、初代培養心筋細胞肥大を指標としたスクリーニングによって心不全治療薬の新規候補化合物を9個同定できた。今後、動物実験で心不全改善効果の検討を行うことで、心不全治療薬の開発につながることが期待される。