【目的】心筋細胞の核内伝達経路であるp300/GATA4経路は心不全の発症・進展に重要な役割を果たすことを知られている。しかしながら転写因子GATA4による転写活性制御の詳細なメカニズムは未だ不明である。そこで本研究の目的は、GATA4が二量体形成をすることで転写活性に関与するのか、さらにはその二量体を阻害することで肥大反応が抑制されるのかを検討することである。
【方法・結果】HEK293T細胞に免疫沈降-ウェスタンブロッティング (IP-WB) 法やPull-down法によりGATA4が二量体を形成すること、308-326番目のアミノ酸配列のいずれかがアセチル化部位を含んでおりそのアセチル化が二量体形成に必要であることが示された。GATA4とp300を共発現すると、GATA4のアセチル化が上昇し、二量体形成も増加した。次に、GATA4の二量体形成部位を含む人工タンパク質 (GATA4 dimerization region protein, GDP) 発現ベクターを作成し、過剰発現したところGATA4の二量体形成を阻害した。またレポーターアッセイによりp300/GATA4過剰発現による肥大反応遺伝子である心房性ナトリウム利尿ペプチドやエンドセリン-1のプロモーター活性の亢進をGDPは抑制した。しかしながら、GDPはGATA4とp300の結合やGATA4のアセチル化量に影響を与えなかった。またクロマチン免疫沈降法やDNA Pulldown法を行ったところGDPは、GATA4のDNAプロモーター上へのリクルートに影響を与えなかった。初代培養心筋細胞を用いて、蛍光免疫染色で細胞面積を測定したところ、GDPはフェニレフリン (PE) 刺激による心筋細胞肥大を抑制した。さらに、レポーターアッセイを行ったところGDPの過剰発現はPE刺激による肥大反応遺伝子のプロモーター活性を抑制した。
【考察】GATA4はp300によりアセチル化を受けることで二量体形成し、転写活性を上昇させ、心筋細胞肥大を引き起こすことが明らかとなった。さらに、二量体形成阻害によりGATA4の転写活性化、心筋細胞肥大が抑制されたことから、GATA4の二量体形成阻害が新規心不全治療の標的となる可能性が示された。今後GATA4の二量体化形成を阻害する化合物を探索することで、新規心不全治療薬の開発に繋がると考えられる。