【目的】心筋細胞核内に存在するp300のヒストンアセチル化酵素(HAT)活性は心筋細胞肥大や心不全の進展において、重要な役割を担っている。我々は、天然抽出物クルクミンがp300-HAT活性を特異的に阻害することで、心筋細胞肥大や心不全の進展を抑制することを見出した。しかしクルクミンは吸収効率が極めて悪く、バイオアベイラビリティーが低いという欠点を有している。これを改善するため、より低用量で心不全抑制効果を示す誘導体・類似体が求められる。クルクミンのジケトン構造がモノケトン構造に変換された合成類似体であるGO-Y022は、クルクミンよりも高い抗腫瘍活性を有している。さらに、GO-Y022はクルクミンの熱変性体としてカレーに含まれていることから、安全性が高いと考えられ、臨床応用が期待されている。しかしながら、GO-Y022の心筋細胞肥大に対する効果については明らかとなっていない。そこで本研究ではGO-Y022のp300-HAT活性阻害作用や心筋細胞肥大抑制効果についてクルクミンとの比較検討を行った。
【方法】GO-Y022のp300-HAT阻害作用を検討するために、大腸菌より作成したリコンビナントp300-HATドメインを用いてin vitro p300-HAT アッセイを行った。次に、GO-Y022の心筋細胞肥大抑制効果を検討するために、ラット初代培養心筋細胞に0.3, 1 µMのGO-Y022及び10 µMのクルクミンを処理し、肥大を誘導するフェニレフリン (PE) 刺激を行った。培養48時間後、抗β-MHC抗体による免疫染色及び細胞面積測定により心筋細胞肥大並びに定量的RT-PCR法にて心肥大マーカーのANFやBNPのmRNA量を評価した。
【結果】in vitro p300-HATアッセイの結果、GO-Y022はp300-HAT阻害作用を有していた。その阻害効果はクルクミンと同程度であった。一方で、初代培養心筋細胞において、蛍光免疫染色の結果、PEによる心筋細胞肥大をGO-Y022はクルクミンの10分の1の濃度である1 µMで抑制した。同様に、定量的PCRの結果、PE刺激によって増加するANFやBNPのmRNA量を1 µMのGO-Y022はPEによる心筋細胞肥大を10 µMのクルクミンと同程度に抑制した。
【考察】GO-Y022はクルクミンと同程度のp300-HAT活性阻害作用を有している一方で、クルクミンよりも低濃度で心筋細胞肥大を抑制した。今後、GO-Y022を用いた心不全モデルを用いた動物実験を行うことで、GO-Y022がクルクミンよりも効果的な新規心不全治療薬となることが期待される。