【目的】慢性心不全の発症と進展には心臓線維化が関与しており、線維化を標的とする創薬研究が期待されている。病態時において、線維芽細胞が筋線維芽細胞へ分化し、過剰なコラーゲン分泌などの線維化反応を誘導する。当研究室ではType IIのアルギニンメチル化酵素であるPRMT5が線維化のキーとなる転写因子Smad3と結合することを報告している。そこで本研究では、Transforming Growth Factor-β (TGF-β) によって誘導される筋線維芽細胞への分化における、PRMT5の機能性と阻害剤の薬理効果を明らかにすることを目的とした。
【方法・結果】PRMT5阻害剤EPZ015666およびsiRNAを用いたノックダウンを行い、筋線維芽細胞マーカーであるalpha smooth muscle actin (αSMA) の発現量をウエスタンブロットおよびqRT-PCR法にて検討した。その結果、EPZ015666およびノックダウンにより、TGF-βによって誘導されたαSMAの発現亢進を抑制した。次に、クロマチン免疫沈降法 (ChIP assay) にて、新生児ラット初代培養心臓線維芽細胞におけるPRMT5のDNA上へのリクルートを検討したところ、TGFβ刺激により線維化関連遺伝子 (αSMA, Col1A1) プロモーター部位へのリクルートが増加した。さらにこのPRMT5のリクルートはSmad3のノックダウンにより抑制された。PRMT5はヒストンH3R2対称的ジメチル化を介して、転写を促進することが報告されている。そこで同様にTGF-βで刺激し、ChIP assayによりヒストンH3R2対称的ジメチル化の変動を検討した結果、Col1A1およびαSMAのプロモーター部位においてヒストンH3R2の対称的ジメチル化が増加していた。このH3R2の対称的ジメチル化はEPZ015666およびPRMT5ノックダウンにより抑制された。
【考察】以上の結果から、PRMT5は線維化関連遺伝子プロモーター上のヒストンメチル化反応を介して、線維化関連遺伝子の転写を促進することが示唆され、この転写反応は阻害剤により抑制された。今後PRMT5を標的とした分子標的薬が、線維化を制御する新たな作用機序を有する、心不全治療薬の開発につながることが期待される。