【背景】5-aminolevulinic acid(ALA)は、ミトコンドリア内でグリシンとスクシニルCoAより合成されるヘムの前駆物質であり、ミトコンドリア活性化に関与している。すなわち、ALAを投与することによりミトコンドリアの活性化がおこり、細胞内でのATP産生が増加すると考えられている。一方で、脳内のミトコンドリア活性の低下は疲労感と関係することが指摘されている。そこで本研究では、中枢性の慢性疲労におけるALAの抗疲労効果並びにその作用機序について明らかにするため、慢性疲労モデル動物の確立とその中枢神経系の変化について検討を行った。
【方法】実験には雌性C57BL/6Nマウス(6週齢)を用いた。1.2 mg/mLに調製したALA hydrochloride(ALA飲水群)又はPBS(溶媒飲水群)をそれぞれ給水瓶に入れ、マウス搬入翌日から8週間にわたって自由飲水させることで投与した。中枢性慢性疲労モデルは、4日間の水浸 (23±1℃) 飼育(疲労群)又は金網飼育(非疲労群)を実施することで作製した。また、疲労の程度はtreadmill figure testにおける走行距離を指標に評価した。試験終了後、直ちに脳を摘出し、サンプル調製後、HPLCにより脳内局所におけるノルアドレナリン(NA)含量を定量した。
【結果・考察】水浸飼育した疲労群マウスでは、非疲労群と比較してtreadmill figure testにおける走行距離が有意に減少した。この結果から、浸水ストレスによる疲労モデル動物の作製に成功したと考えた。また、疲労群で認められた有意な走行距離の低下は、ALA飲水により有意に回復した。一方、非疲労群においては、ALA飲水による影響は認められなかった。これらの結果より、中枢性慢性疲労モデルにおいて、ALAが改善効果を示すことが示唆された。さらに、内側前頭前野のNA含量は、疲労群において有意に減少していた一方で、ALAを飲水した疲労群ではこれらの変化は認められなかった。以上の結果から、ALAによる抗疲労効果には、内側前頭前野のNA神経が関与していることが示唆された。