【背景】Gタンパク質共役型受容体は、二量体(ダイマー)を形成するが、受容体ダイマーとβ-アレスチンの相互作用については未解明な点が多い。我々はこれまで、延髄腹側のV1bバソプレッシン受容体とμ-オピオイド受容体が、β-アレスチン2との相互作用を介し、アデニレートサイクラーゼの高感受性を誘導し、モルヒネの鎮痛効果に対する耐性を増強する可能性を見出した。しかし、μ-V1bヘテロマー受容体とβ-アレスチン2の直接の共役についてはこれまで証明されていない。
【目的】本研究では、μ-V1bヘテロマー受容体とβ-アレスチン2の相互作用の有無やその様式を明らかにする。
【方法】NanoBiT®スプリットナノルシフェラーゼとVenus間の生物発光共鳴エネルギー転移(NanoBRET)を利用し、μ-V1bヘテロマー受容体とβ-アレスチン2による3分子間における相互作用を解析する。
【結果】受容体ヘテロマーとβ-アレスチン2の解析にNanoBit-NanoBRET法を世界で初めて用いることにより、アゴニスト非存在下でも、β-アレスチン2がμ-V1b受容体に結合し、3分子の複合体を形成していることが判明した。この恒常的な結合は、当初アゴニストを加えても変化は検出されなかった。しかし、ルシフェラーゼの発光に対するVenusの蛍光強度の比を低下させる実験条件により、NanoBRET反応のアゴニスト依存性を検出することに成功した。さらに、μおよびV1b受容体の両アゴニストによる同時刺激は、相加的にNanoBRET反応を上昇させた。
【考察】これまで我々は、2分子間の相互作用解析から、V1b受容体のカルボキシル基末端がロイシンリッチセグメントを介し、β-アレスチン2と未刺激でも相互作用していることを報告してきた。本研究により、μ-V1b受容体ヘテロマーにおいても、アゴニスト非存在化でβ-アレスチン2と結合していることが明らかとなった。この結合を第1相とすると、アゴニスト刺激により、μ-V1b受容体ヘテロマーとβ-アレスチン2の間に、さらに強い第2相目の相互作用が起こることを見出した。今回の成果を応用することにより、μ-V1bヘテロマーのバソプレッシン結合部位を標的とした、モルヒネ耐性を軽減する化合物のスクリーニングが可能であると考えられた。