【背景・目的】子宮平滑筋肉腫は、治療抵抗性の予後不良な希少疾患である。エリブリンは、乳がんや子宮平滑筋肉腫を含む悪性軟部腫瘍に適応される微小管重合阻害薬である。我々は以前、乳がんにおいて、エリブリンの抗腫瘍活性に微小管動態調節因子であるスタスミンが関与することを報告した。スタスミンは、微小管を構成するαβチューブリンヘテロダイマーを捕捉し、微小管の脱重合を促進するリン酸化タンパク質である。本研究では、ヒト子宮平滑筋肉腫細胞におけるエリブリンによるスタスミン動態の変化とエリブリンの抗腫瘍活性における役割について調べた。
【方法】子宮平滑筋肉腫細胞株(SKN)にエリブリンを処置し、スタスミンのリン酸化と発現変動を検討した後に、エリブリンによるスタスミンのリン酸化機構を調べるためPKA阻害薬(H89)、CaMKII阻害薬(KN62)、プロテインホスファターゼPP2A活性化薬(FTY720)を処置した。また、PP2Aと内因性PP2A阻害因子(SET、PME-1、CIP2A)の発現に対するエリブリンの作用及びエリブリンの抗腫瘍活性に対するスタスミンのノックダウンと過剰発現の効果を検討した。さらに、エリブリン耐性SKN株(ER-SKN)を作製し、スタスミンの発現を調べた。
【結果】SKNにおいてエリブリンは、スタスミンのリン酸化を誘導し、タンパク質発現量を低下させた。このエリブリンによるスタスミンのリン酸化量の増加に対してH89及びKN62の前処置は影響しなかったが、FTY720は減少させた。またエリブリンは、PP2Aサブユニット及びPP2A阻害因子のmRNA発現に影響することなく、PP2Aサブユニットのタンパク質量を低下させた。エリブリンによる増殖抑制作用は、スタスミンノックダウン細胞では減弱し、スタスミン過剰発現細胞では増強した。ER-SKNでは、対照細胞と比較してβチューブリンアイソタイプと薬剤排出トランスポーターの発現が亢進しており、スタスミン発現量は顕著に低かった。
【考察】子宮平滑筋肉腫細胞においてエリブリンは、スタスミンの発現を抑制すると共にPP2Aを介してリン酸化を誘導することが示唆された。エリブリンの作用は、スタスミンの過剰発現により増強されたことから、エリブリンの抗腫瘍活性におけるスタスミンの関与が示唆された。