【背景】柑橘類果皮に含まれるメトキシフラボノイドであるNobiletinは様々な生理活性が報告されており、我々の研究室においても心不全進行抑制効果を見出している。しかしながら、結晶Nobiletinは水溶性が低くバイオアベイラビリティが低い。この問題を解決するために、Nobiletin非晶質固体分散体製剤 (ASD-Nob) を開発した。これまでにASD-Nobは、in vitro実験において高い溶出性、膜透過性を示しており、in vivoモデルにおける経口吸収性改善が期待されている。
【目的】本研究の目的は、ラットにASD-Nobあるいは結晶Nobiletin経口投与後の血中Nobiletin濃度、組織分布、血中Nobiletin代謝物について検討することである。
【方法】8週齢雄性SDラットにNobiletinとして20 mg/kgのASD-Nob又は結晶Nobiletinを経口投与した。ASD-Nob又は結晶Nobiletin投与5、10、30分、1、2、4、8時間後、麻酔下で採血及び肝臓、小腸、心臓、骨格筋、肺、腎臓、脾臓、脳の摘出を行い、血中Nobiletin濃度、組織Nobiletin含有量、血中Nobiletin代謝物を測定した。Nobiletinは代謝の過程でメトキシ基が脱メチル化されることが知られており、今回の実験では8種類のデメチル体について検出した。Nobiletin、Nobiletin代謝物の検出にはLC-MS/MSを用いた。
【結果】ASD-Nob投与後の血中Nobiletin濃度は、投与後速やかに上昇し、最高血中濃度到達時間 (Tmax) は1時間であった。ASD-Nob投与後のNobiletin最高血中濃度 (Cmax)、血中濃度-時間曲線下面積 (AUC0-8h) はそれぞれ1,479 ± 289 ng/mL、4,795 ± 332 ng・h/mLとなり、結晶Nobiletin投与の66倍、51倍とそれぞれ有意に高かった。ASD-Nob投与後の組織におけるNobiletin含有量は、肝臓、小腸、心臓の順に高かった。ASD-Nob投与後の組織におけるNobiletinのAUC0-8hを結晶Nobiletin投与後と比較すると肝臓 (6.2倍)、小腸 (4.9倍)、心臓 (6.2倍)、骨格筋 (7.6倍)、肺 (5.1倍)、腎臓 (3.4倍)、脾臓 (16.3倍)、脳 (3.8倍)となりASD-Nob投与後が有意に大きくなった。ASD-Nob投与後の血中Nobiletin代謝物として、6種類のデメチル体が検出され、7-デメチル体多く検出された。3‘-デメチル体と3‘,4‘-ジデメチル体は検出されなかった。
【考察】新たに開発したASD-Nobは結晶Nobietinと比較し高い経口吸収性と組織移行性を示した。今後、様々な疾患に対して、低用量で高い血中濃度を得られるASD-Nobを用いた臨床応用が期待される。