【背景・目的】AM404 はアセトアミノフェンの代謝産物であり、内因性カンナビノイドであるアナンダミドを輸送するトランスポーターを阻害する作用を有する。この AM404 は、海馬スライス標本における神経毒性に対し保護作用を示すことが報告されている。我々は、AM404 がN-メチル-D-アスパラギン酸 (NMDA) によるマウス網膜神経傷害を抑制することを報告したが、その作用機序については明らかではない。本研究の目的は、NMDA 誘発網膜神経傷害に対する AM404 の保護作用に、カンナビノイド CB1 受容体あるいはカンナビノイド CB2 受容体が関与するか否かを明らかにすることである。
【方法】実験には B6.Cg-Tg (Thy1-CFP) 23Jrs/J マウス (網膜神経節細胞に ECFP を発現させたトランスジェニックマウス) を用いた。NMDA (40 nmol/eye) による網膜神経節細胞傷害に対する AM404 (3 nmol/eye) の保護効果と、それに対する SR141716A (カンナビノイド CB1 受容体遮断薬, 10 pmol/eye) あるいは SR144528 (カンナビノイド CB2 受容体遮断薬, 10 pmol/eye) の影響を検討するために、NMDA あるいはその溶媒と、各被験薬物の混液を硝子体内投与した。7 日後に眼球を摘出して網膜フラットマウント標本を作製し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。視神経乳頭に近接する 0.2 mm2 の領域におけるECFP陽性細胞数を測定し、細胞残存率を求めた。
【結果・考察】NMDA 誘発網膜神経節細胞の脱落は、AM404 により有意に抑制された。この AM404 の NMDA 誘発網膜神経節細胞傷害に対する保護作用は、SR141617A によりほぼ完全に抑制された。一方、SR144528 は AM404 の網膜神経保護作用に影響を及ぼさなかった。以上の結果から、AM404 の NMDA 誘発網膜神経傷害に対する保護作用にはカンナビノイド CB1 受容体が関与しており、カンナビノイド CB2 受容体の寄与は小さいことが示唆された。