緑内障は進行性の視神経症であり、本邦における失明原因第1位の眼疾患である。緑内障における失明は網膜の視覚情報を脳へ伝達する網膜神経節細胞(RGC)の傷害や脱落によって誘発される。本疾患の最大の危険因子は高眼圧である事から、眼圧下降薬による治療が第一選択である。しかし、既存の治療薬は作用不足や薬剤抵抗性、副作用などの問題があり、新たな分子標的探索が急務となっている。我々は、緑内障患者の眼房水ではATPレベルや代謝酵素に異常が生じる事からP2受容体が眼圧の制御に関わると仮説を立てて検証した結果、P2Y₁受容体が眼圧制御に関わる事を発見した。本発表ではP2Y₁受容体活性化が眼圧を抑制性に制御する事、並びにその下流シグナルに関する知見を報告する。P2Y₁受容体作動薬は野生型マウスの眼圧を用量依存的に低下させた。眼圧は眼房水の産生及び排出により制御される。免疫組織化学染色から、P2Y₁受容体は眼房水産生に関わる毛様体突起の無色素上皮に発現している事を見出した。同部位にはアクアポリン4(AQP4)が発現していた。P2Y1受容体作動薬の点眼は、眼房水産生を強く阻害した。同様に、AQP4阻害薬も眼房水産生を強く抑制した。AQP4阻害薬存在下ではP2Y1受容体作動薬による眼房水産生阻害作用は認められなかった。一方、P2Y1受容体欠損(KO)マウスでは眼房水産生は過剰となっており、この時、AQP4阻害薬はより強い眼房水産生阻害作用を呈した。これらの結果より、P2Y1受容体活性化はAQP4を抑制する事によって眼房水産生低下並びに眼圧下降作用をもたらすと考えられた。次に、P2Y1受容体による制御機構の破綻と緑内障との関係について検証を行った。P2Y1KOマウスの眼圧は月齢に関わらず高く、慢性的高眼圧にある事が明らかとなった。しかし、P2Y₁KOマウスは3カ月齢ではRGC脱落は認められず、12カ月齢で有意なRGC数の減少を認めた。さらに12カ月齢P2Y1KOマウスは、RGCのアポトーシスや網膜神経線維層の菲薄化、視覚機能の減弱などの所見を呈した。以上P2Y1受容体は、加齢依存的な高眼圧型緑内障様症状と強くリンクする受容体である事が明らかとなった。(942/1000文字)