【目的】緑内障及び糖尿病時の網膜神経変性において、グルタミン酸興奮毒性の関与が示唆されている。過剰量の N-methyl-D-aspartic acid (NMDA) を硝子体内に投与すると、速やかに網膜神経傷害が生じる。当研究室ではこれまでに、糖及び脂質代謝に重要な役割を演じている AMP 活性化プロテインキナーゼ (AMPK) の活性化が、ラットにおける NMDA 誘発網膜神経傷害に対して保護効果を示すことを見出している。Resveratrol はブドウの果皮に豊富に含まれるポリフェノールの一種であり、抗酸化作用や AMPK 活性化作用を有することが報告されている。本研究では、resveratrol がラットにおける NMDA 誘発網膜神経傷害に対して保護効果を示すか否か、及びその保護効果における AMPK の意義について検討を行った。
【方法】8~9 週齢の Wistar 系雄性ラットを用いた。硝子体内に NMDA (25, 50 又は 100 nmol) と resveratrol (100 nmol) 又はその溶媒である DMSO との混合液を投与した。AMPK の意義については NMDA (50 nmol) と resveratrol (100 nmol) の混合液に、AMPK 阻害薬である compound C (10 nmol) 又は DMSO を混合して投与することにより検討した。投与 7 日後に眼球を摘出し、網膜断面の薄切切片を作製して HE 染色を行った後、視神経節細胞層に存在する細胞数及び内網状層厚を測定した。
【結果】NMDA (25-100 nmol) は用量依存的に視神経節細胞層に存在する細胞の脱落及び内網状層の菲薄化を引き起こした。NMDA (50 nmol) による傷害は、resveratrol を同時に投与することによって抑制された。Compound C は、resveratrol の保護効果を有意に抑制した。
【考察】本実験成績は、ラットにおける NMDA 誘発網膜神経傷害に対して resveratrol が保護効果を示し、その保護効果には AMPK の活性化が関与していることを示唆している。