L-DOPA(ドーパ)は、単なるドパミンの前駆体として位置づけられ、ドーパそのものには薬理作用はないと考えられてきた。一方、我々はドーパ自体が神経伝達物質であるとの仮説を提唱してきた。我々は今まで、ニコチンが、ドーパを側坐核および線条体から遊離することや、ニコチンの行動に及ぼす効果の一部が、ドーパ拮抗薬であるドーパシクロヘキシルエステルにより抑制されること等を明らかにしてきた。また、最近になり、ドーパ受容体分子としてGタンパク質共役型受容体GPR143が同定された。今回、ニコチンの薬理作用におけるGPR143の役割を解明するために、野生型およびGPR143遺伝子欠損(GPR143-KO)マウスにおけるニコチン作用を比較・解析した。野生型マウスにおいて、ニコチン(0.6, 1.0 mg/kg, i.p.)は、自発運動量を抑制した。その効果はGPR143-KOマウスにおいて減弱した。また、ニコチン(0.1, 0.3, 0.5 mg/kg, i.p.)による報酬効果を条件付け場所嗜好性試験で評価したところ、野生型と比較し、GPR143-KOマウスにおいて減弱した。GPR143とドパミン神経マーカーのチロシン水酸化酵素(TH)およびニコチン性アセチルコリン受容体(nAChRs)の局在性についてin situ hybridizationおよび免疫染色法を用いて検討した。GPR143 mRNAシグナル陽性の細胞体は、側坐核および線条体において認められ、これらは、TH免疫陽性繊維と近接していた。GPR143 mRNAは腹側被蓋野および黒質においてTHおよびnAChRsと一部、共局在していた。以上の知見は、GPR143が、ニコチンの急性・慢性効果に関与することを示唆する。