【背景・目的】ヒトの腸管には約1000種類、100兆個の腸内細菌が生息し、腸内細菌叢を形成している。腸内細菌叢の形成は出生直後から始まり、成長に伴いその構成が変化していく。分娩や育児方法、様々な化学物質への曝露が原因で細菌叢の構成に異常が生じると、宿主腸管内の脂質などの物質代謝や免疫応答を変化させて、アレルギーや肥満など様々な疾患の有病率を上昇させると考えられている。しかし、新生児の成長に伴う腸管内の物質代謝の変化については明らかになっていない。本研究では、マウスの新生仔の成長に伴う、盲腸内の脂質代謝の変化を明らかにすることを目的とした。
【方法】5日齢と3週齢、6週齢のBALB/cマウスの腸管と盲腸洗浄液を採取した。摘出した腸管は病理切片を作成してHE染色やアルシアンブルー染色を行い、その形態を観察した。質量分析装置を用いて盲腸洗浄液中の生理活性脂質と短鎖脂肪酸の一斉分析を行った。
【結果】マウスの週齢に依存した腸管の発達が観察された。空腸と回腸では、5日齢から6週齢で柔毛が50μm以上伸長した。また、5日齢から6週齢の腸管全体で杯細胞数が約2倍に増加した。盲腸洗浄液中の生理活性脂質を解析したところ、5日齢のマウスでは25種の脂質が検出され、そのうちアラキドン酸(AA)代謝物が12種類、リノール酸(LA)代謝物が6種類であった。ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)の代謝物は検出されなかった。3週齢のマウスでは、71種類の脂質が検出され、このうちAA代謝物が29種類、DHA代謝物が13種類、EPA代謝物が8種類、LA代謝物は8種類であった。6週齢のマウスからは、70種類の脂質が検出され、AA代謝物が30種類、DHA代謝物が13種類、EPA代謝物が8種類、LA代謝物は8種類であった。3週齢と6週齢では67種の脂質が共通して検出された。短鎖脂肪酸は、5日齢マウスの盲腸洗浄液中では2種類、3週齢と6週齢では9種類が検出された。これらの短鎖脂肪酸のうち年齢による検出量の変化が確認されたものがあった。
【結論】 マウスの新生仔では、成長に伴い腸管形態と脂質代謝が変化した。特に、離乳期である3週齢で盲腸における生理活性脂質と短鎖脂肪酸の産生が大きく変化した。母乳から固形飼料への食餌の変化が大きく影響する可能性が示唆された。今後はこれらの脂質産生動態と腸内細菌の生着、免疫応答との相関について解析を進めていきたい。