【背景】
アレルギー性結膜炎は、花粉などの抗原によって引き起こされる結膜のアレルギー反応であり、涙の増加、結膜の浮腫、眼の掻痒感などの症状を伴う疾患である。この反応は、結膜に存在する肥細胞が抗原を認識してヒスタミンなどの炎症誘発物質を放出し、これらが結膜の血管や神経を刺激することで起こる。我々はω-3脂肪酸EPAの代謝産物である(±) 5,6-dihydroxy-8Z,11Z,14Z,17Z-eicosatetraenoic acid(5,6-DiHETE)が、マウスの耳におけるヒスタミン誘発性の炎症を抑制することを報告した。本研究では、マウスのヒスタミン誘発性結膜炎に対する5,6-DiHETEの治療効果を検討した。
【方法・結果①】
雄性Balb/cマウスに0.04または0.08 mg のヒスタミンを点眼して結膜炎を惹起した。瞼の外観を観察するとともに、シルマー試験紙を用いて涙の量を、静脈内に投与した色素の結膜への漏出量により血管透過性の変化を評価した。0.04 mgのヒスタミンを点眼すると、約5分後からマウスの瞼が腫れ、眼を閉じる様子が観察された。また、15分後には涙の増加と結膜への色素漏出量の亢進が観察された。ヒスタミン受容体の阻害剤であるケトチフェンを0.2 mg、15分前に腹腔内投与するとマウスが瞼を閉じる様子に変化はなかったが、ヒスタミン投与による涙の量の増加が54.6 %、血管透過性の亢進が100 %抑制された。ヒスタミン投与の15分前に0.3 mg の5,6-DiHETEを、腹腔内投与したところ、ヒスタミン投与による眼の張れと瞼の閉鎖が改善し、涙の増加と血管透過性の亢進が、それぞれ73.2 %、87.5 %抑制された。
次に点眼による5,6-DiHETEの効果を検討した。マウスに0.08 mgのヒスタミンを点眼すると、約5分後からマウスの瞼が腫れ、眼を閉じる様子が観察された。上記と同様に15分後に涙の増加や血管透過性の亢進が観察された。ヒスタミン投与の45と15分前に、0.1 µgのケトチフェンを点眼すると、マウスが瞼を閉じる様子はなかったが、ヒスタミン投与による涙の量の増加が52.4 %、血管透過性の亢進が98.6 %抑制された。ヒスタミン投与の45分及び15分前に1 µgの5,6-DiHETE を点眼したところ、ヒスタミン投与による眼の腫れと瞼の閉鎖に変化はなかったが、涙の増加と血管透過性の亢進が、49.6 %、92.0 %抑制した。 
【結論】
以上より、5,6-DiHETEの0.3 mg腹腔内投与、又は1 µgの点眼による投与は、ヒスタミン投与によるマウスの結膜炎症状を有意に抑制した。