【背景・目的】脂肪組織由来の幹細胞は自己複製能と多分化能をもつ間葉系幹細胞である。肥満の進行過程おいて脂肪組織由来幹細胞は脂肪細胞へ分化し、脂肪滴の貯蔵やアディポカインの分泌を行う。またコラーゲンやフィブロネクチンを産生し脂肪組織の線維化に寄与することも報告されている。しかし脂肪組織由来幹細胞の機能破綻と、生活習慣病などの発症リスクとの関連についてはほとんど理解されていない。これまでに当研究室では脂肪組織由来幹細胞の遺伝子発現を網羅的に解析し、nuclear receptor 4a1(Nr4a1)が高発現していること、Nr4a1の安定発現株では脂肪分化を抑制することを明らかにしている。そこで本研究では脂肪組織由来幹細胞選択的Nr4a1欠損マウス(Nr4a1-cKOマウス)を作成し、in vivoにおいてNr4a1が脂肪組織由来幹細胞の機能調節を介して、生理機能の恒常性維持や疾患発症に関連する可能性を調べることを目的とした。
【方法・結果】Nr4a1-cKOマウスにTamoxifenを25 μg/g/dayで6日間腹腔内投与することによりNr4a1欠損を誘導した。2週間の回復期間をおいた後、脂肪組織を採取しflow cytometry 法により脂肪組織由来幹細胞(PDGFRα (+)CD31(-)細胞)を分取した。Nr4a1の発現量をRT-qPCR法にて定量した結果、Nr4a1-cKOマウスにおいて約60%の減少が確認できた。次にNr4a1が肥満の進行や病態悪化に寄与するか検討するため、Nr4a1-cKOマウスに高脂肪食を8週間摂餌させた。Nr4a1-cKOマウスでは体重増加量が有意に減少した。また、Adiponectinと炎症促進因子(TNFα、IL-6、Ccl2、PAI-1)の発現量に有意な差は認められなかったが、線維化調節因子であるTGFβ1とCol1a1の発現量は皮下及び内蔵脂肪で減少していた。さらに、各脂肪組織から分取した脂肪組織由来幹細胞における線維化調節因子の発現量を定量したところ、Col3a1、Mmp2、Timp1の発現量が皮下脂肪組織由来幹細胞で有意に減少していた。
【考察】以上の結果より、脂肪組織由来幹細胞においてNr4a1を欠損させると、肥満の進行下において線維化調節因子が抑制されることが示唆された。今後、Nr4a1による線維化調節機構と生活習慣病と関連しているか解明されることが期待される。