【背景】
メラトニンは松果体においてセロトニンからAANATによるN-Acetyl serotonin (NAS) の産生を経て HIOMTにより生成される概日リズムを形成するホルモンである。膵β細胞において、セロトニンは妊娠期に膵β細胞において産生が亢進すること、セロトニンが妊娠期における膵β細胞増殖に関与すること、セロトニンから変換されるメラトニンもインスリン分泌調節に関わることなどが報告されている。これらのことより、膵β細胞内で妊娠期にセロトニンより変換されたメラトニンが膵β細胞に作用する可能性が考えられた。そこで、膵β細胞および妊娠マウス単離膵島におけるメラトニン関連分子の発現および機能の解析を行った。
【方法】C3H/Heマウス単離膵島、および膵β細胞株(INS-1)を用い、[Ca2+]iオシレーション測定、インスリン分泌測定及びメラトニン関連分子の発現変化の解析を行った。
【結果・考察】セロトニン産生が増大するとされる妊娠12.5、15.5日目におけるC3H/Heマウスから単離した膵島においてメラトニン合成酵素AANATとHIOMTの発現がRT-PCR法により認められ、膵島内でメラトニンが産生されていることが示唆された。そこでAANATの発現調節機構についてINS-1細胞を用いて検討した結果、INS-1細胞においてアデニル酸シクラーゼ活性化薬forskolin 処置により AANATの発現が有意に増大した。すなわち、AANATは細胞内cAMPレベルの上昇を介して発現が増大することが示唆された。さらに、メラトニンの膵β細胞における作用を検討した結果、膵β細胞におけるグルコース誘発 [Ca2+]iオシレーションとインスリン分泌がメラトニン処置により有意に抑制され、その抑制反応は非選択的メラトニン受容体阻害薬Luzindoleの処置で消失した。以上の結果より、膵β細胞においてメラトニンシグナリングがインスリン分泌を抑制性に制御すること、さらにメラトニンシグナリングは細胞内cAMP濃度変化によって制御され、妊娠期にはその制御が変化する可能性が示された。ゲノムワイド関連解析により妊娠糖尿病とメラトニン受容体遺伝子の変異との関連が明らかとなっており、妊娠期におけるメラトニンシグナリングの変化が妊娠糖尿病発症に関与する可能性が考えられる。