糖尿病の長期的な罹患は血管内皮機能障害を引き起こし、様々な合併症発症のリスクをあげる。当研究室では、糖尿病性血管内皮機能障害時、G protein-coupled receptor kinase 2 (GRK2) 活性上昇により β-arrestin2 と Akt の相互作用が阻害されることで Insulin 誘発血管弛緩反応が減弱することを見出している。一方、Glucagon-like peptide-1 (GLP-1) はインクレチンホルモンとして血糖降下作用を有し、糖尿病時の血糖コントロールに使用されているが、近年、我々は GLP-1 が Akt 活性を上昇させることで血管内皮保護作用を示すことを報告した。そこで、本研究では、GLP-1 が糖尿病時に減弱した Insulin 誘発弛緩反応を改善させるかに着眼し、またその作用機序について検討を行った。自然発症 2 型糖尿病モデルマウス ( ob/ob 群) を使用した。Ob/ob 群において、NO 産生量の減少により Insulin 誘発弛緩反応が減弱したが、GLP-1 処置により NO 産生量が増加し、弛緩反応が改善した。さらに、この改善反応は、β-arrestin2 を siRNA によってノックダウンすると、完全に相殺された。よって、ob/ob 群における GLP-1 処置 Insulin 誘発弛緩反応の改善には β-arrestin2 が関与していることが示唆された。Ob/ob 群において、Insulin 単独刺激により低下した Akt の活性が、GLP-1 処置 Insulin 刺激により上昇した。さらに、Control 群と比較して ob/ob 群で増加した GRK2 発現は Insulin 単独刺激および GLP-1 処置 Insulin 刺激において変化は見られなかった。しかし ob/ob 群で増加した GRK2 活性は、Insulin 単独刺激においては変化せず、GLP-1 処置により低下した。このことから、GLP-1 は糖尿病時の GRK2 活性を抑制することにより、Akt 活性を上昇させ、Insulin 誘発弛緩反応を改善することが示唆された。一方、control 群において、β-arrestin2 は Insulin 刺激により細胞膜上に移動した。しかし、ob/ob 群では β-arrestin2 の Insulin 刺激による細胞膜上への移動は認められず、GLP-1 刺激により細胞膜上に移動し Insulin 誘発弛緩経路を活性化した。これらの結果より、GLP-1 は糖尿病時の GRK2 活性を抑制し、β-arrestin2 の細胞膜への移動を促すことで Aktを活性化し、Insulin 誘発血管弛緩反応を改善することが示唆された。したがって、GLP-1 は血糖降下作用を有しているだけでなく、血管内皮障害を改善する効果を持ち合わせ、血管保護薬としての可能性が示された。